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□君の世界を俺にも分けて
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俺達が女子の訓練場についた時、そこは血生臭い戦場と化していた。

即加勢に行け、との司令塔からの指示だったため、俺達は個々に散ってそれぞれ危なそうな女子に加勢していくことにした。

俺は、正直弱くない。

小紅を守るという目的のもと、小さな頃から訓練に励んで今では一騎当千と言われるほどだ。だから、そう簡単に殺られはしない。

俺は片っ端から加勢して、どんどん奥に進んで行った。

しかし、いつまで経っても小紅は見つからない。

焦りが募っていく中、俺はどんどんどす黒い感情に苛まれていった。

これは俺の悪い癖で、大事な人が危ない目にあうと、どんどん俺の中の歯止めが狂っていってしまうのだ。

人を傷つけるのは苦手だ、傷つけたくないという感情と、俺の大事な人を傷つけたら本気で滅茶苦茶にして殺してやる、という感情が矛盾して……もう、なにがなんだかわからなくなる。

ある程度理性が効いているうちは殺さずに半殺し程度に留めておけるが…。

そんなことを考えていると。


「や、めろ!やめるであります!!小紅は、こんなところで死ぬわけにはいかないのであります!!」


声が、聞こえた。

よく見ると奥の方に、壁際に追い詰められながらもサーベルを握る小紅と、小紅を追い詰めている白軍の男が見えた。

小紅は脚を負傷していて立てないのか、床に座り込んでしまっている。

その光景を見た途端、俺の中の、どす黒い感情を押さえつけていた止め金が外れた。

一気に、殺してやる、という感情が湧き起こり、小紅に剣を振り下ろそうとしていた男を横から蹴り飛ばした。


「お前は…俺の小紅に、何をしようとしていた…?」


自分でも中々出したことのないような低い声が出る。

俺は小紅に背を向けているため小紅の表情はうかがい知ることはできない。しかし、驚いているのは空気でわかった。

男が立ち上がる。


「なんだよ、王子様登場ってか?
お前、見たことあるぜ、戦闘に全然参加しない日和身って噂の奴じゃねーか。
そんな奴に俺が―――ぐはっ」


男は下卑た笑みを浮かべながら俺に向かって喋りかけてきた。

しかし、俺にそんなもの待つ余裕はない。

俺は話の途中で男の顔面に拳を振るった。男は向かいの壁に叩きつけられる。


「うるさい、黙れ、不愉快だ。
俺の大事な小紅に手を出したな…これで小紅が歩けなくなったらどうしてくれる。
……死んで詫びろ」


頭を壁に打ち付け意識がなくなったのかぐったりとする男に、俺は拳銃を向けた。

心臓に銃弾を叩きこもうとしたその瞬間、


「杏樹!杏樹!!やめるでありますっ!」

「っ!? こ、べに…?」

小紅が這いずって移動してきたのか、俺の脚を掴んでそう叫んだ。

「杏樹、よく考えるであります!
杏樹にも大事なものがあるように、この人にだってあるのでありますよ!
小紅は、殺されていないのであります、大丈夫でありますから…!
だから…!
この人を、殺したらダメであります……!!」

「―――――っ」


俺は、その言葉を聞いて拳銃を下ろした。


「ほんとうに?ほんとうに大丈夫なんだね、小紅?」


俺が目線を合わせてそう問いかけると、小紅は笑って頷いた。


(ああ、まったく、この子は…)


俺は自分の汚さを思い知ると共に、小紅を羨ましく感じた。

この子の見る世界は俺みたいに自己中心的じゃなく、敵だって自分と同じ位置で感じることのできる世界なんだ。

俺の世界も君と同じなら、こんななどす黒い感情にも苛まれることはないのかな…。

…もしそうなら、ねぇ小紅…、


「……君の世界を、俺にもわけて?」









fin.
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