スズラン学園へようこそ!
□4月 後編
1ページ/18ページ
「プラチナ・ベルリッツです。 よろしくお願いいたします」
大きくはないが、よく通る凛とした声音で、彼女は自己紹介をした。
そこは中学二年生の教室で、今はショートホームルームの時間。転校生の紹介をしていた。
「はい、ありがとう。
そこの空いてる席に座って」
担任のゲンがプラチナの背中を軽く押し、席へとエスコートした。
プラチナは小さくうなずくと、指定された席へと黙って座る。
そのようすを、ダイヤモンドはぼーっと見つめ、パールは無視して一生懸命ネタを書いていた。
ダイヤモンドは、のんびりとパールに声をかける。
「あの子、転入生だったんだね」
「え?」
ダイヤモンドに言われ、パールは初めて顔を上げて転入生の姿をみた。
「あぁ、どっかで会ったよな」
それだけ言うと、再び顔をメモ帳に向けるパール。
ダイヤモンドは、勇気を出して隣に座ったプラチナに声をかけてみた。
「オイラ、ダイヤモンド。
よろしくねぇ」
「え……」
プラチナは一瞬驚いたような顔をする。
しかしすぐにキリリとした表情に戻って、口を開いた。
「はい。
よろしくお願いします」
〆
「オイラ、ダイヤモンド。
よろしくねぇ」
……本当に驚いた。
今まで彼女…プラチナは、いろいろな中学を転々としてきた。
その中で席に着いた瞬間に、挨拶されたのは初めてだ。
と言うかまず、声をかけられたのが初めてかもしれない。
お嬢様のような外見、立ち振る舞い、すべては幼少期から仕込まれたもの。
それが取っつきにくい印象を与えたのか何なのか、友達はいなかった。
ずっと、一人だった。
ずっと、独りだった。
「あの、」
つい声に出てしまう。
ダイヤモンドと名乗った彼は、首を傾げた。
「なあに」
「え?あ、何でもありません」
「そーお?
困ったことがあったら、何でも言ってね」
ふわりとダイヤモンドは笑った。
その笑顔に偽りはなかった。
つられて頬が緩みそうになったが、きゅっと力を入れて堪える。
笑った顔を見られるのは、恥ずかしい。
「……ありがとう、ございます」
ダイヤモンドに聞こえるか聞こえないかくらいの小声でつぶやく。
少し、スズラン学園での生活に希望が持てた。