俺たちは進み始める
□交わる世界
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俺が神原へと視線を移すと、窓側一番後ろの自分の席ですでに弁当を食べ始めているようだった。
違うクラスな上、大柄で色黒で変な言葉遣いの錦は目立つ。
クラスの大半が錦に注目する中、当の神原は我関せずと言った様子だ。
「おまん、サッカーに興味あるんか」
『…は?』
神原の目の前に立った錦は、いきなりド直球にそう切り出した。
「いっつも練習見とるんじゃろ?」
ニカッと笑う錦に、神原の箸が止まる。
『…興味はあるけど、やる気はない』
そう短く答えて顔を上げる神原は、どこまでも無表情だった。
「なるほど興味はあるんか」
『だったら何』
ほとんど睨んでいるに近い目付きで見上げる神原に、錦は怯みもせず
「いんや。ただ、これだけは言える…」
ビシッと神原を指差して言い放った。
「おまんは、近いうちにサッカー部員になる!」
『……』
強気な笑顔で言い切る錦。
神原は少しだけ目を見開いていた。
驚いた表情(と言うよりやはり無表情だが)なんて始めて見たな。
しかしすぐにいつもの冷めた目つきになると、神原は再び弁当を食べ始めた。
「俺は錦龍馬ぜよ。サッカーやる気になったらいつでも大歓迎じゃきに!!」
それだけ言って満足そうに頷くと、錦は自分の教室へと戻っていった。
大歓迎って、まだ俺たち1年だろ…
そう思いつつ、なんとなく錦が言うと違和感が無いなと苦笑し、神原を見る。
クラスメイトにはまだ神原をチラチラみながら話している奴もいるのに、神原は何も無かったかのように弁当を食べていた。
いつも通りの、無表情だった。