俺たちは走り続ける

□入部テスト
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入部テストのため、ボールかごを持ってサッカー棟から出たときだった。


「空野葵です!マネージャーやりたいので、お願いします!!」

『へ?』


「マネージャーって…サッカー部の?」

サッカー棟の前で、一年の女子と音無先生が話しているのが見えた。

「はいっ!」

空野葵、と名乗った女子は元気良く返事をした。


見覚えがあると思えば、天馬たちと一緒にいた子だ。



『サッカー部の?本当に?』

すぐ近寄って、確かめる。

「はいっ!」

「そう…ありがとう。じゃあ、よろしく頼むわね」


今俺は信じられない、という顔をしているだろう。
信じられないから無理も無い。

「はい!頑張ります!!」


目の前にいる女子の眩しい笑顔に、つい泣きそうになるのをぐっとこらえた。

この子は疲れから来る幻じゃなさそうだ。
音無先生も一緒に話してるんだし…

パシャッ

『!!』


不意に聞こえたカメラのシャッター音に振り返ると、


「わたし、山菜茜。よろしくね、葵ちゃん」

そう微笑んだのは、さっきの山菜さんその人だった。

『あああああ!!山菜さん!』

「え?」

『どこ行ってたの?!』

「ずっといたけど」


不思議そうな顔で微笑む山菜さんに、拍子抜けした俺は
それ以上彼女に食ってかかるのは諦めた。


『音無先生、彼女もサッカー部のマネージャーをやってくれるそうで』

「えっ?!そうなの?!」

「はい、よろしくお願いします」


「そう…よろしくね。サッカー部のマネージャーは今、一人だけなの」


そう言われて空野に自己紹介していないことに気付き、
抱えていたボールかごを下ろした。



『俺、2年の神原涼。サッカー部のマネージャーをやらせてもらってる』

よろしく、と言って右手を差し出すと、

「えっ?! あっはいっ!よろしくお願いします!」

俺の顔を凝視していた空野が一拍遅れて反応する。
握手をしながら、空野は躊躇いがちに口を開いた。

「あの…俺ってことは………」

そういうことか。


『あぁ、紛らわしくてごめんな?俺、一応男だから』


苦笑いの音無先生を横目にボールかごを持つと、
まだ困惑気味の空野と楽しそうな山菜さんを連れて、グラウンドへ急いだ。
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