俺たちは走り続ける
□これが化身だ!B
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〈神原涼視点〉
「もうダメだ。あいつら俺たちに怪我させてでもサッカー部奪う気だ…悪いけど、俺……」
そう言ってグラウンドを出る水森は、この前やっとセカンドからファーストへと上がったばかりの奴だ。
あんなに努力してファーストに上がったのに。
神童の説得も空しく、水森はグラウンドから出て行ってしまった。
松風はまだ入部してもいないのに、試合の最前線で戦っている。
サッカーが大好きというその情熱は、今のサッカー部には眩しすぎる。
どんなに間違っていようと、それに勝てない以上そっちが正しいんだ。
いつだってそうだ。力でねじ伏せて無理やり従わせる。
最初は自然に。だんだん強引に。
違うと気付いた時にはもう遅い。
いつだって……
「神原!」
『…っ! は、はいっ!!』
気付くと隣に座っていた久遠監督が、俺の肩をつかんで揺さぶっていた。
何を考えていたのか思い出せない。
頭がぼーっとする。
「…大丈夫か」
『え?あ…はい、…?』
久遠監督はしばらく俺の顔を見ていたが、なんとも無い事が伝わったのだろう、
少し目を細めて再びその視線をコートへと戻した。
「やるよ」
俺もコートを見ると、すでに立っている選手は松風だけだった。
そんな中、剣城が松風にボールを渡した。
「え…」
「さぁ、来な」
挑発的な剣城の笑みに、松風は覚悟を決めたような表情をした。
その瞬間、松風に周りに風が吹いたような気がした。