俺たちは走り続ける
□始まりの出会い
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『………』
さて、どうしたもんか。
ここで俺が本当の事を言うのも、嘘を言うのも簡単だ。
どうせサッカー部に入ったら、嫌でも知ってしまうわけだから。
腐りきった少年サッカー界の現状を。
『なぁ、松風』
「…はい」
俺が急に深刻な顔になったのがわかったのか、少し緊張気味な返事が返ってきた。
『サッカー、好きか?』
「え…? あ、はいっ!大好きです!!」
一瞬何を聞かれているのかと戸惑ったが、真っ直ぐなその答え方はしばらくの間見ることができなかったものだった。
『…あいつらも、1年前はこうだったのにな……』
そのつぶやきは松風には聞こえなかったようで、「何ですか?」と聞いてきたが俺はあえて無視して続けた。
『もしお前の好きなサッカーが、誰かに馬鹿にされたり、悪事に利用されたりしていたら』
そこで俺はわざと一旦言葉を切った。
『お前はどうする?』
松風の目を見て問いかける。
「……えーっと、難しい事はよく分からないですけど……。
サッカーが馬鹿にされるのは嫌だし、きっとサッカーだって悲しいと思う。
誰かが悪い事にサッカーを利用するなら、俺はそれを絶対に止めさせたい!
だってサッカーがかわいそうだもん!」
こぶしを握り、叫ぶように答える松風。
「……と、思います…」
熱くなりすぎたことに気付いたのか、話し忘れた敬語を今更付け足す。
顔を赤くして目を逸らすその様子に、俺は腹を抱えて笑ってしまった。
『あっははははははは!』
「っえ!何で笑うんですか!!」
慌てる松風の頭を軽くなでて言った。
『今の俺に言えることは、決してその気持ちを忘れるなってことぐらいかな』
「その、気持ち…?」
目の前の先輩が何を言っているのか分からないといった感じで言葉を繰り返す松風に、俺は再度言った。
『サッカーを好きだって気持ちを持ち続けるんだぞ』
「は、はいっ!!」
困惑気味だがしっかりと返事をした彼に、俺は何だか希望を抱いていた。
松風なら…この腐りきったサッカーを変えてくれるんじゃないか、と。