俺たちは進み始める
□自習時間
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<速水鶴正視点>
「神原君、かぁ…」
急遽自習時間になった5時間目。
お昼休みのすぐ後ということもあってか、教室は全体的に騒がしい。
自分の席を離れて歩き回っている人もいれば、30分前から微動だにせず机に突っ伏している人もいる。
「神原がどうかしたのか?」
「あ、霧野君」
本来彼の席ではない俺の隣の席には、文庫本を静かに読み耽る霧野君が座っていた。
「すみません、読書の邪魔しちゃいましたか」
「いや、いいよ。それよりさ、やっぱ速水も聞いたんだな」
「神原君のことですか?」
「あぁ、サッカー部の練習見てるって話」
開いていたページにしおりを挟むと、霧野君は本を閉じた。
「はい、聞きました」
「……サッカー部、入りたいのかな」
「どうなんですかね」
こういうやり取りさっきもしたなぁ。
霧野君はじっと俺のことを見ていた。
探るような目をした後、ふっと視線をそらして彼は続けた。
「あいつ、なんか暗いよな」
「…暗い、ですかね」
「…?明るいか?」
「明るくは、ないですね」
「…速水はどう思うんだ?神原のこと」
「どう、というか…俺あんまり神原君のこと知りませんけど、こう…
悲しそうっていうか、苦しそうっていうか…。無理、してるように見えるんですよね」
「…無理してる?」
「あ、いや…俺の勝手な思い違いですよ」
思ったことがぼろっと口から出てしまい恥ずかしくなった俺は慌てて訂正する。
でも、落ち着いてて物静かな神原君の横顔は、いつだって物憂げに見えた。