俺たちは走り続ける

□入部テスト
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そして放課後。

帰りのHRが終わると同時に教室を飛び出した俺を、
呼び止める声があった。


「ねえねえ、神原君」
『えっ?!』

声に驚き振り返ると、
パシャッというカメラのシャッター音とフラッシュ。

『わっ?!』
「わたし、山菜茜。サッカー部の入部希望なの」

フラッシュのせいでチカチカする目をこすりながら答える。

『一応男子サッカー部だから公式試合には出れないけど、大丈夫?』

雷門には女子サッカー部が無いから、入れなくは無いはずだ。

「選手じゃなくてマネージャー。入部テストってあるの?」
『……え?』
「サッカー部のマネージャーになりたいの」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。


『…えぇっ! ほっ本当!?』

「うん」

嬉しさが込み上げてきて言葉に詰まった。

よく見ればこの子…
試合で何度か見かけたことのある、神童のファンの子だ。


『本当にいいの?』
「入部テストあるの?」

『ないよ!誰でも歓迎!!』
「じゃあやる」

感動の余り何も言えなかった。

沈みかかった船に乗ってくる奴がいるとはなぁという
昨日の浜野の言葉が蘇り、つい目頭を押さえた。


『あ、じゃあ早速今から…あれ?』

ぱっと顔を上げると

今さっきまで目の前にいたはずの山菜さんが突如として姿を消していた。


『え、あれ?』
「神原!まだこんなところにいたのか?」

『あ、倉間』

「ちゅーかさっき勢い良く教室出てったのに、こんなとこで何してんの?」
「忘れ物ですか?」

『浜野、速水……』


辺りを見回してみても、山菜さんの姿はどこにも無い。

『い、今さ!サッカー部のマネージャーになりたいって女子がいたんだけど!』


その一言に、速水が気の毒そうな顔で言った。

「大丈夫ですか?疲れてるんじゃないですか?」


本気で心配している目に、何だか居た堪れなくなった。
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