俺たちは走り続ける

□多忙な昼休み
1ページ/4ページ

その日の午前中。

俺は授業の合間を見計らっては、校内のいたるところにある掲示板に
サッカー部の入部テストを知らせるポスターを貼りに走った。



3年生の教室がある廊下にポスターを貼りに来たときだった。


「おい、曲がってんぞ」

後ろから突然声がかかった。

『えっ?!』

丁度、最後の画鋲をさし終えたところだった。


『あっ南沢先輩!こんにちは』

先輩は俺のあいさつには返事をせず、無表情でポスターを見ていた。

『曲がってますか?』
「嘘に決まってんだろ」

嘘すか…

いつの間にか先輩は、苦笑する俺を見ていた。


『どうかしたんすか?』
「お前はさ、入部希望者どれくらい集まると思う?」

めずらしいな、と頭の隅で思った。

あまり時間の無い授業間の休み時間。
俺から話を振るならいざ知らず、先輩から立ち話を始めるなんて、と。


『あー…朝三国先輩も言ってましたけど、やっぱり読めませんよね』

「だろうな」

『最悪、昨日の二人だけ…なんてこともあるんじゃないですか?』

「松風、だったか。あいつ、入部できると思うか?」


相変わらず先輩は無表情のまま、足元を見ていた。

『できるかどうかわかりませんが、して欲しいとは思ってます』

俺は、率直な意見を言った。本心だった。


「へぇ………… なぁ、お前もさ」

言葉と共に顔を上げる先輩の前髪が揺れた。


「本当のサッカーを取り戻したいって、思ってるんだろ?」

『っ!!』


自分が明らかに動揺したのがわかった。
今朝も監督に言われた言葉だった。

「やっぱりな」
『いや、俺は……』

「もう戻れよ。授業、始まるぞ?」


不敵に微笑んだ先輩は俺の弁明をさえぎって、颯爽と歩いていってしまった。


しばらくそこでぽかんとしていた俺だが、向こうから先生が歩いてきたのが見えて、
急いで自分の教室へと戻った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ