Color Variation

□Lost Thing
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春も過ぎ、次第に夏という季節と独特の暑さを運んでくる風―――――――――――――――


廊下の曲がり角を曲がって突き当たりの一室………


今日も彼は扉をノックする




「調子はどう、零?」


「あっ俊!」



カラカラと扉をスライドさせて、微かに開いた隙間から顔を覗かせた

お決まりの言葉を発して



「入ってきなよ、毎回そこで止まるけどさ」


零が顔を覗かせたままの状態の伊月に声をかけた


その言葉を聞くと扉を最後まで開けきり中へと足を踏み入れる



「だって零、毎回同じ反応しかしないじゃないか」


「そりゃあ、毎回同じような言葉ばっかり言われてちゃあね……」



そろそろ言葉のレパートリーにも限界が出てくるワケで………



「あのね、今日看護師さんに言われたんだけど

わたし、別の病院に移ることになるんだって。なんでもこの病院じゃ、もう手に逐えないんだってさ」



零は小さい時から心臓に病を抱えていた


大きくなった今でも、その発作はときどき現れては消えの繰返しで、入退院を繰り返していた

だから、まともに学校という場所にも通った覚えがない

零は早くに両親を亡くしていたため、病室を訪ねてくれるのは肉親に近い幼馴染みの伊月だけ………



「自然の多い場所で、町の雰囲気と合ってるんだって

まさに『町並みに自然がマッチ』ってね」


「零そのネタいただき!」



早速ネタ帳を取り出すと零が言ったダジャレを書き込んだ


「フフ、ダジャレって面白いね」


「だろ?なのにバスケ部のメンバーに言うと全然面白がってくれないんだよ」


「えー、それホント?」



屈託のない、心からの零の笑顔

病に侵されながらもいつも笑い続けて、オレはいつもその笑顔に救われてた



「じゃあ今度、今まで考えたネタ教えて!!」


「オッケ、次来るときネタ帳持ってくるよ。100冊近くあったハズだから」


「そんなに!?楽しみにしてるね!!」






"楽しみにしてるね"、この言葉が零と約束した最後の言葉だった






翌日の同じ時間に零の病室を訪れた

手には、カバンに入りきらなかったネタ帳を持って

いつもと同じように扉をノックした

しかし、いつもの零の声が返ってこない


眠っているのかと思って、起こさないようにソッと扉をスライドさせて零の病室へ足を踏み入れた

しかし、オレの眼に飛び込んできた光景は



顔に白い布を被せられた零だった



いつも見せていた明るい表情がソコには無かった




「あなたが帰った数時間後に容態が急変して……、しばらくは薬でもっていたんですけど、今朝亡くなってしまいました」



病室で一人佇む影を見つけて通りかかった看護師さんに説明を受けた



オレはあの時、何をしてあげられただろう………?

その時持っていたネタ帳の中に書き込んであったネタだけでも見せてあげれば良かったのだろうか?

今更過ぎる後悔だけど、後悔せずにはいられなかった


この気持ちを一回も伝えられないまま、零が自分の前からいなくなってしまうなんて、


誰が思っていただろう………





その日、伊月は面会終了の時間になるまで零の隣で泣いた

いくら流れても止まることを知らない涙は零の眠るベッドに小さな斑点模様をつくっていた


「零ゴメンな、今更後悔しても遅いって分かってるけど」





―――――――――――――――"零、お前が好きだった"



多分、小さい時からずっと好きだった

ずっと気付かないフリしてたけど、






「好きだったんだ―――――――――――――――……」




フと零の手を見ると、何か細かい文字が書いてあったことに気付く

ライトの光を当ててみると



"俊が好き"





このたった一言が書かれていた



周りを見回してみると床には一本のペンが転がっていた

薬でもっていた時に必死に手を動かして書いたのだろう

文字は弱々しく、すぐに消えてしまいそうなほど……




「とんだバカヤロウだな、オレもお前も………」



無くしてから初めて気付いた当たり前の存在、


伝えられなかった言葉は、無くした今だから口を出てくる


"好き"と言うだけのたった一言の"わすれもの"、





どこにいったらこの"わすれもの"をお前に伝えることが出来る―――――――――――――――?
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