夏目友人帳

□ぬくもりはこの手に
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小さい頃から時々 変なものを見た
他の人には見えないらしいそれらはおそらく


妖怪と呼ばれるものの類。









ぬくもりはこの手に










「いってらっしゃい、貴志くん」





『いってきます』




昔ながらの横開きの扉を開けると、ふわり、と暖かい日差しと春の空気が肌を撫でた。


(ここに来てから、気持ちが落ち着く。

いや…むしろ、新しい何かが増えてるみたいに。

何て言ったらいいのか…でも返したいんだ、この暖かさに。)



「待って貴志くん、お弁当!」



俺が物思いにふけっていると、慌てた様子の塔子さんが駆けてくる。




「次からは早く起きて、余裕をもっていかなきゃだめよ」



『はい。すみません、ありがとうございます』



包みを手に乗せ、藤原 塔子は柔らかく微笑んだ。他人から見ればありふれた光景かもしれない。だがこれがどれだけ尊いものか、夏目は知っていた。



ああ、暖かい。



『いってきます!!』



明るめにそう言うと、手を振る塔子さんに背を向けて走り出した。
















ーのだが。



『やばい…間に合わない』



学校までの道のりを走っている途中から、薄々と感じていた。
これは遅刻する。
妖絡みで遅刻することはこれまでに多々あるので、最近は気をつけていたのだが…



昨晩も名を解放して、体がだるい。
しかもにゃんこ先生やヒノエ、中級妖怪までが酒を飲み始め、見事にできあがってしまっていた。うるさくて眠れやしない。



『用心棒のくせに…まったく』





姿を思い出したら笑えてくる。あれは仮の姿だけど、もはやにゃんことして定着してる。


にゃんこ先生…本来の名は 斑(まだら)



(「本来の私の姿はそれはもう優美なのだ」)

そう言っていた通り、招き猫の依り代から変化した時は驚いた。
まぁ…どちらかと言うと獣っぽい。
でもまた太ってきたな…ダイエットさせないと。

夏目は今頃酒瓶を抱き締めながら眠っているであろう用心棒にため息をついた。








――今は亡き祖母 夏目レイコがひまつぶしに作った、使い方次第では妖を統べることができる、主従契約書の束"友人帳"――


それを孫として受け取った俺は、名を縛られた妖や、友人帳を私欲に使おうとする妖から追われる日々をおくっている。


にゃんこ先生には自分の死後、友人帳を渡す代わりに用心棒を頼んだ。



レイコさんに代わって、名を返したい



それが夏目 貴志の望みであり、妖怪と関わる事が多くなったことは仕方ないと思える。


(俺が決めた事だ。やり遂げたい)


しかし、疲労に寝不足。よくあるものの、慣れるものではないし、体は思うより前へは進まなかった。
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