夏目友人帳
□ぬくもりはこの手に
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このままでは遅刻する。
そう判断した夏目は、近道である林道を走っていた。
(あまり通りたくはないけどな)
走りながら夏目は思う。この道には、あまりいい経験はない。
『うわっ!』
寝不足による疲労からか、何かに足を引っかけた。
いや、滑った。と言った方がいいかもしれない。転ぶ手前で何とか踏みとどまった。
足を掬われる感覚に少しだけ高鳴る胸を落ち着かせながら、転びそうになった原因を見つめた。
『何だ…鏡、か?』
拾うと、それは確かに手のひらサイズの鏡だった。ちょうど鏡の部分を踏んだらしい。表面には靴跡の泥がついてしまっていた。
(どうしてこんなところに落ちてるんだろう)
自分が付けた靴跡以外、鏡には汚れも、傷さえもなかった。不思議に思いながらも、カバンからティッシュを取り出し拭こうとした。
「私の鏡になんてことをしてくれたんだ」
…なんだ!?
すぐ傍で声がする。しかし、見渡しても人の姿は見えない。
焦りながら『誰だ!』と叫ぶ。相手は低い声で笑い始めた。鏡の汚れの隙間から、お面を被った"何か"が見える。
まずい、妖…!と鏡を手放そうとした瞬間、鏡から光が瞬いた。
その時、鞄から白い物体が身じろぎしたのを感じながら夏目は意識を失っていった。