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□No.001〜005
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市民街へ行くと、小さな露店があった。
そこの店主に声をかけると、私を客だと思ったのか、愛想良く笑い、売り出しものを指差した。
「こりゃあ、綺麗な旅の人だ!旅に欠かせない大事なもの一杯売ってるから、見てってくれよ」
「そうだね、ふふ。見るだけならいいよ」
「良かったらお手に取って頂いても…」
「………勿体ぶって悪かったね、私が タラコ・ キューピー。そちらにはもう届いてるよね? 」
「え!?貴女が…ハッピーアーク……!!?」
「そう。荷物を貰いにきたんだけど」
「はい!ご用意してあります!」
私の正体を知って急に態度を変えた店主は、小さな袋を私に差し出した。
そう。
これが私の商売道具の一つでもある、大事なもの。
「まさかハッピーアークに会えるとは………」
「そんな畏まる必要はないのに。……その様子だと、若くてびっくりしたってとこかな」
「…あ、いえ、そんな」
「大丈夫、よく言われるから。それじゃあ、商売頑張って下さいね」
「はい!!」
元気の良い返事をしてから、店主は軽く頭を下げる。
その店主に最後にお礼を言ってから市民街を出て貴族街へ。
すると、周りの雰囲気は一気に静かで優雅なものになる。
兵士があちらこちらで見回りをしており、警備は厳重だった。
「相変わらずお堅い造りだね、ここは……」
確かここに、ハッピーアークを必要とする者がいると聞いたのだが。
名前はアルデ。
その情報しか得ていないので、聞き込みでもしないと見つからないだろう。
そう思っていたとき。
後ろから声をかけられた。
「お前がハッピーアークか」
「……よくお分かりで」
振り返れば、いかにも豪奢な衣服を着た男性が得意気に笑っていた。
「お前の容姿はよく知れ渡っているからな」
「それは……ありがたいことで。あなたがアルデ様ですね。それで、どんな幸せをお望みで?」
「地位だ」
男は悪びれる素振りもなく、まるで吐き捨てるように言った。
「俺の兄貴を殺してくれ」
その言葉だけで、大体の想像がついた。
こういう要望をハッピーアークにしてくる輩はよくいる。
驚くこともせずに、私は返す。
「そうですか。ではまず、【殺し】代金の100万ガルドを請求させて頂きますが」
「金ならいくらでも出す」
「では、どのような殺しをお望みで?」
「自殺のように見せかけるんだ」
重く、黒い何かが、私の胸中で錘のようにのし掛かる。
「【自殺】はプラス50万ガルドになります。合計150万頂きます」
「ふん、わかった」
「仕事が終わった際に、まとめて頂きますのでご準備をしていて下さい。ではまず、前金として30万ガルドを徴収いたします」
私の仕事は色んな人の幸せを運ぶこと。
それが例えどんなに残忍なことであれ、依頼人にとってそれが幸せであるなら、ハッピーアークはどんなことでもする。
それに見合う報酬さえ貰えれば。
人の死を計りにかけること事態、大いに間違った行為であることはよくわかっている。
だが、仕事を選んでいては、私は生きていけない。
昔からそう教わったのだ。
誰にでもない、この世間に。
………