□No.000
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なんなんだ、アイツは!?

暗闇の中、走って下り坂を降り、行き止まりになった。

辺りは民家が多いが、夜も深いので自分の荒い吐息が響くだけ。

だが、その静けさが余計に自分の不安感を大きくしていく。

仕舞いには吃逆を上げるような嗚咽を漏らしながらも、微動だにしない足に、動けと念じる。


「感心するよ。人間の足でよくここまでこれたね」


ハッ、とした時には、アイツは目の前にいた。


「このっ…化け物、めぇ…!!」


罵倒したというのに、アイツはまるで聞き飽きたとでも言うように溜め息を吐いた。

少しでも時間がかせげれば…!


「貴方達がいると、仕事やりにくいんだけど?」

「そりゃ、悪かったよ…。反省してる」

「前に来た刺客も同じ事言ってた」


僅かな慈悲もなく、目の前に突き付けられた鋭利なナイフが、死の冷酷さをより物語っていた。


「待て!待ってくれ!頼む!!少しだけでいいから!……最後の、祈りだけでも、させてくれ…!!」


地面に這いつくばり、懇願する自分を見て、やつは肩を竦めて黙った。

その間に祈りの十字を切る【ふり】をして、手にとあるブツを仕込む。


「このテルカ・リュミレースに
繁栄があらんことを」


合掌と同時に、先程仕込んだ手を突き出した。

はたから見ると、目の前のやつの腹部を軽くを叩いたように見えただろう。

だが、事態はそんな単純な操作だけ行われたわけではなかった。

その手に仕掛けられていたのは空砲。

当たった者は内臓機関を損傷するだけでなく、遥か彼方に飛ばされてしまう、軍事用魔導器だった。

パンッ、と乾いた音と共にやつは吹っ飛んだ。

斜め上へと、まるで玩具のようにやつの体は空中に投げ出される。

その軌道はどうやら民家らしき二階まで行くようだ。

窓がちょうど開いていたため、音もなく二階の部屋へとやつは姿を消す。

と、ほぼ同時に中で何かにぶつかるような音がした。

それを見てすぐに自分は立ち上がる。

とっくに体力は限界を越えているというのに無我夢中でまた逃走した。



……
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