鋼の錬金術師

□第31話
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貴方に会いたくて





必至に足を動かした











「はっ…はぁ…」











貴方の声が聞きたくて





必至に酸素を吸った











「…っ…はっ」











貴方に伝えたくて





必至に必至に貴方を捜した――――


















「っ…エンヴィー!!」


















沈む夕日に照らされながら振り返るエンヴィーは何処か寂しそうに見えた











「クロア…」



「エンヴィー、」



「来るな!」



「…っ」











その言葉に足を止める





エンヴィーの様子を伺えばエンヴィーは俯いて静かに声を発した













「俺…最初から全部知ってた…」



「……」



「知ってて…利用しようとしてたんだ」













ひとつひとつ言葉を吐き出すエンヴィーは辛そうに見えた



エンヴィーが話す内容は私にとっても辛いことかも知れない



でも聞きたい



エンヴィーの話そうとしている話を…













「…元々賢者の石を作っていたノアがその研究を持ち出してきた時、俺達はそれに興味を持ったんだ」













エンヴィー達側からしたらそれは都合のいい研究だった




だから賢者の石を差し出し、研究を援助したという













「研究の内容も聞いてた。娘を対象にすることも…だけど突然ノアは消えた」



「それは…私が」



「そうだよ。クロアが殺したから。だけどその時は気付かなかった。

 だから捜したんだ、ノアの研究が誰かに漏れればが大変だからね。ノア見つからなくても研究資料と石さえ見つかれば良かった」


















だけど両方とも見付からなかった



当たり前だ



研究資料も石も私が持っていたのだから













「そしてノアの代わりに」



「私を見付けた…」



「うん…」













そして気付いたとエンヴィーは続ける



私の中に石があり、それが成功ではなく中途半端な失敗作だということを















「記憶がないのも知ってた。でも石と研究対象を野放しにするわけにはいかなかったから…」















無理矢理にでも仲間に入れた




脅して




ロイを人質に取って















「…ごめんね…俺達に出会わなかったらクロアは普通に…普通の女の子として生きていたのに…っ…幸せに生きれたかもしれないのに…」















その言葉にクロアは小さく、掠れた声で呟いた


















「……なんで…?」







「え?」







「なんでそんなこと言うの…っ!?」


















声をあげたクロアの顔を見てエンヴィーは目を見開いた





クロアの瞳に涙を見た














「私がいつ幸せじゃないなんて言った?最初は嫌だったよ。でも今は違う…好きで此処にいるんだよ…」




「でも…」




「私幸せだよ…人造人間のみんなと一緒にいれて…。エンヴィーは…出会わなきゃ良かったと思ってるの…?後悔してるの?」




「…!でも俺達に会わなければこんな辛い思いしなかったんじゃないの…っ?母親がノアの指示で殺されたなんて知りたくなかっただろ!」




「知りたくなかったよ!でも!それでも幸せだったんだよ…!」
























大きく息を吸った





ずっと伝えたかった


























「エンヴィーが傍にいてくれたから!!」


























叫ぶように伝えた言葉は風と共に消え




クロアはゆっくりと顔をあげた


















「…バッカみたい…っ」


















エンヴィーは片手で顔を覆ってそう小さく呟いた



表情は隠れていて見えないが声が微かに震えていた


















「エンヴィーは最初から私のこと知ってたんでしょ?知ってて好きになってくれたんでしょ?」




「……」




「エンヴィーと同じ好きかは…いまいち良くわからない…けどこれだけは言えるよ…っ」


















エンヴィーは相変わらず俯いたままだけれどクロアはそんなエンヴィーに向かって言った


















「私がいつも想うのは、エンヴィーなんだよ…!傍にいたいと思うのも、傍にいて欲しいと思うのも…全部全部…エンヴィーなんだよっ!!!」


















ぽろぽろと落ちる涙をクロアは拭かない




もう拭いたって意味がなかった




























「だから…出会わなきゃ…良かったなんて、言わないでよ…っ…私だって、エンヴィーが好きなんだから…っ!!」




























そう叫ぶように伝えた時にはクロアの身体はエンヴィーの胸の中だった























「クロア…っ!クロアっっ!!」




「エンヴィー…」




「好きっ…大好きだよ…っクロア!」























ぐっと強くなる腕



私もエンヴィーの背中に腕を回し強く



強く抱きしめた














「エンヴィー…っ」














温もりが、






エンヴィーの想いが、






身体から伝って届く



























「やっと辿り着いたな」


















ふと聞こえてきた声に思わず振り向いた



そこには見覚えのある真っ白な世界とその住人










「真理…」



「よお」










気付けばあの扉の前




突然のことで私が周りを見渡しているとその様子を見てか真理はニヤリと笑った












「返し忘れてた記憶があってな。返すぜ」



「え?」



「だがその前に聞いておきたい」












何?そう首を傾げれば真理はゆっくりと私に近付いてきた



そして私の前に立つと手を突き出して胸に当てた













「エンヴィーが恋しいか?」













ドクンッ












「もうわかってんだろ?恋しい、傍にいたい、その想いこそ…恋愛感情だ」













ああ…



じゃあ…















「じゃあ…私のこの”好き”は、エンヴィーと同じ…”好き”なんだね…っ…」



「…ああ」















涙が溢れる




止め処泣く零れ落ちていく











私は誰かに好きになって欲しかった




でもそれと同じくらい




誰かを好きになりかった






恋愛として






何故かわからないけど




強くそう願った日があった気がした















「聞きたいことは聞けた」



「……」



「だから返す。お前が人造人間と初めて出会った10歳の記憶を」



「……っ!!」















思わず涙でグシャグシャの顔を上げた



初めて出会った記憶



それは多分きっと…













「エンヴィーとの約束はそこにある?」



「……」



「……思い出したい」













真理はそう言うのをわかっていたかの様ににっと笑った















「じゃあここでお別れだ」



「え…」















突然の言葉に理解出来ず思わず声が出た











「この記憶で返すのは最後だからな。もうお前が此処にくることはないだろ?だからお別れだ」



「……っ」



「言っただろ、思い出せないのが罪だと。どんなことがあろうと思い出さなきゃいけないんだよお前は」











まあ今のクロアなら必要ない記憶だがな



そう真理は言葉を紡いだ



それに私は黙って頷くしかなかった














「お別れだが俺とお前は友達だ。それは変わらない」



「うん…」



「友達だから言う。幸せになれ」



「っ…うん!」














ギィッと音を立てて開く扉



黒い手はいなかった

















「さようならは言わないぞ。振り返るな、行け!」

















扉を前で私は足を止めた



だけど真理の方を振り返らない

















「…このまま言わせて」



「おう」





















「ありがとう」























地面を蹴って扉へ飛び込んだ




























またな










またね
























俺の










私の


































最初の友達




















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