鋼の錬金術師

□第29話
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「クロア」










目を開ければ心配した顔のエンヴィーがいた














「エンヴィー…、」














名前を呼べばエンヴィーは強く私を抱きしめた














「クロア…っ」














その声は泣きそうに少し震えていた
















「俺…全部知ってたのに……ごめん」





「エンヴィー…?」
















バァァンッ












私がエンヴィーに声をかけようとしたその時、勢いよくドアが開いた




振り返ればそこには会いたいようで会いたくなかった懐かしい顔があった












「クロア!!」





「エド、アル……ロイ…」





「お前…あの時の!」












目に入った光景を見てエドはエンヴィーを睨みつけた













「テメェ!クロアから離れやがれ…!」



「兄さん!」













エンヴィーに掴み掛かろうとするエドの前に私は両手を広げ立ち塞がった














「やめて。エンヴィーはエドが思ってるような奴じゃない」




「でも…!」




「エド達は私に聞きたいことがあって来たんでしょ?」














そう言えばエドは目を大きく広げ私を見た




わざわざこんな所に来たということは暗号を解いたんだろう
















何が書いてあった?







そんなの聞くまでもない







出来れば知られたくなかった







知ってほしくなかった

















「ノアの…研究…、…お前は…」






「……研究は成功してないよ」






「…!!じゃあ…!」



















「だから私は人間でも人造人間でもない。失敗作のバケモノになったんだよ」





「…っ!?」




















エドもアルもロイも目を見開く






私は思い出した記憶を彼らに話した






父の研究のことも、父を殺したことも、人体錬成をしたことも、通行料が記憶だったことも、真理との約束も






全てを彼らに話した





















「…ごめん」





「なんで…謝るんだよ…」





















他に言葉が見つからなかった















「…今日はもう帰っていい?話したいことは話したから」





「っ俺は…!」





「鋼の…明日にしよう。クロアも疲れてるんだろう」















ロイは冷静にそういうがロイが誰よりもクロアと話したいと思っているのはエドもわかっていた




だからこそ今ロイの複雑な心中を理解し、これ以上問い詰めるのを止めた

















「……っ」

















クロアはただ無言で部屋を出ていった




ロイもエンヴィーその後に続き部屋にはエドとアルだけが残った














「兄さん…」





「アル、お前はあいつの話し聞いてどう思った?」





「…ビックリした……でも」














アルはそこで言葉を切る




するとエドはそのアルの言葉を紡いだ





















「ああ…クロアはクロアだ」





















兄弟はお互い向き合った














「明日もう一回クロアに会いに行くぞ」



「うん!」





















































気付けばいつの間にか日が昇っていて






私はただ放浪していた






もう何を想えばいいかわからない















「クロア…!」















遠くから聞こえてきた声に振り向くと金色と鎧がこちらに向かってきていた












「エド、アル…」




「お前、家戻ってないのかよ」




「うん、まぁね」












息を切らして走ってくるのを見て私を捜していたのはすぐにわかった





エドとアルは何か用があって私を捜していたはずなのに二人とも黙ったままだった





お互い沈黙が続く中、エドがやっと口を開いた

















「クロア…」



「なんかごめんね…」

















だけど急に恐くなってエドの言葉を遮った

















「だから…なんで謝るんだよ…っ」




「…私、本当のバケモノだよ」

















私の言葉に今まで伏せていた目を揺るがせ見開いた























「ふざけんなッ!!」
























エドは私の襟元を掴みかかる





綺麗な金色の瞳にはしっかりと私が映っていた


















「なんでお前は自分から離れていこうとするんだよ…っ!」


















エドの瞳が揺れる








そんな顔しないでと言いたい








だけど言えなかった



















そんな顔させたのは紛れも無く私だったから



















「前にも言っただろ…クロアはクロアだって…っ」





「そうだよ…」















顔を伏せたエドの代わりにアルが言葉を発した















「魂だけのボクを見てもクロアはボクをボクとして見てくれただろ?人間とか人造人間とか関係ないよ…っ…クロアはクロアじゃないか…」

















アルの声も今にも泣きそうな震えた声だった















「バケモノと言って離れていかないでよ…ボク達、仲間だろ?」




「でも…私は…」






















「俺はクロアが好きだ!」























二人の足元を漂っていた目線を思わず上げた





なんて言った?
















「クロアが好きだ」





「なん、で…」





「理由なんてない…ただ誰よりも傍にいたいと思ったのは、お前だ」


















なんで





だって私は…



















「ボクも好きだよ」





「アル…」





「笑ってるクロアが好きだ」



















目頭が熱くなるのが自分でもわかった






私を私と見てくれていることが嬉しかった






そして何より好きだと言ってくれたことが嬉しかった
















「確かに話を聞いた時はショックだったよ。でもそれはクロアの話の内容がショックだったんじゃない」





「じゃあ…」





「俺達が拒絶すると思い込んで話してるお前にショックだったんだよ」
















エドの言葉が突き刺る








確かにその通りだった








拒絶されると思っていた








だから恐かった








だから会いたくなかった








だからごめんの一言しか思い付かなかった








だから知られた時無性に泣きたくなった





















「…俺達がお前を拒絶するわけないだろ」





「もっとボク達を信じてよ」





















ズキリと胸が締め付けられるように痛かった






私は彼らを信じてあげられなかった






彼らは私を信じていたのに
















「って記憶を思い出してすぐには信じられないかもしれないけど…」





「ごめん……」





「良いって!時間かけて信じられるようになってくれれば良いんだから!もー!なんかクロアらしくないよ!」





「アルの言う通りだ。いつものクロアならもっと刺々しい言葉を…」























エド







アル























「あり、がと…っ…信じるよ…エドとアルのこと」






















目に溜まった雫を零さないように必死に堪えて笑えばエドも多分アルも微笑んだ
















「さ、早く行きなよクロア」





「え?」





「クソ大佐のとこ、今行かないでいつ行くんだよ」
















そうだ





行かなきゃ
















「うん…っ」
















ロイの元に……


















「クロア」





「何?」





「さっきす、好きっつったけど…それは…その、友達として…じゃなくて、」





「…うん」





「恋愛感情で…だ」
















少し赤みがかった頬を向けエドは真っ直ぐそう言った












「つーかわりぃ…こんな時に…へ、返事は別にいいから!あんま気にしないでくれ」





「ううん、気持ちの整理が出来たら返事ちゃんとするから。ありがとエド。じゃ行くね」













そう言って踵を返した時、ふとエンヴィーの顔が頭を過ぎった




























”離すわけないじゃん。好きなんだから”


























エンヴィー…














今貴方は何を想ってる?

























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