鋼の錬金術師

□第28話
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部屋を光が包んだ












「これで…」




















また愛してくれるよね…




















バチッ!!
















「!」











……何が変だ…





そう思った時にはもう遅かった
















「……っ!まさか…」





















リバウンド…!



























ドクンッ!



























ふと意識が戻ったかと思うとそこは一面真っ白の世界だった










「ここ…何処…?」










真っ白の世界にたったひとつの扉










「あれ…なに、してたんだっけ…?」




「よお」




「!?」










先程までのことを思い出そうとしていると突然背後から声が聞こえバッと振り返った




しかし振り返った先には人とも言い難い”人型”がいた











「………」





「なんだ?俺を見て何も無しか?」





「…私に話し掛けてる?」





「……は?」











人型はぽかんと口を開け首を傾げた











「ああ…他人と関わらなかったお前ならそう思うのも無理ないか」




「…知ってるの…?」











そういえば人型はにやりと笑った













「俺は世界、あるいは宇宙、お前たちがいう”一”であり”全”であり…お前だからだ」





「…私……?」





「そう。そして俺は真理だ」













クロアは数秒真理を凝視した後小さく呟いた











「なら…私だと言うなら…」




「…なんだ?」











真理を見る目が真剣になる























「私達、友達になれる?」























真理は一瞬だけ驚く仕草を見せた




しかしそれはすぐに笑みに変わった











「私、どうも他人とは仲良くなれないみたいで」




「面白い。友達とやら、受け入れようじゃないか」











真理はそう笑いがらクロアに近付く











「俺にそんなこと言ってくる奴は初めてだ」




「じゃあお互いに最初の友達だね」











クロアがそう手を差し出せば真理はそうだなと小さく笑って手を握った













「クロア…真理を見せてやる」





「!?」













真理の手が離れた瞬間扉が開かれ無数の黒い手が伸びてくる













「…っ…しん、り!」





「安心しろ。友達だろ?」













そうニヤリと笑う真理を信じるしかなかった




黒い手がクロアを扉の中へと引きずり込む





















「うあぁぁぁぁああああああ!!!」





















なに、これ














ドクンドクン














頭が、割れる…!














ドクンドクン















「おと…さん…」















ドクンドクン























「お父さんっ!!」























ゴウンッ























「はぁ…はぁ…っ」




「どうだった?」











クロアの伸ばした手は宙を掴むだけで、気付けば真っ白な世界に戻ってきていた













「…物凄い量の情報を…たたき付けられた感じ…でも唐突に理解した…っ」


















これが真理


















「お父さんの研究理論は正しかった…だけど…何かが足りなかった」





「そう…だからお前が作られた」





「………」













クロアは無表情のまま真理の扉を見上げ口を開いた













「お父さんの研究はラースのように血液中に賢者の石を入れるものではなかった。人間の格そのものを賢者の石にする。それがお父さんの研究」













人間が心臓を格に生きているなら、人造人間は賢者の石を格に生きていると真理は言う

















「研究は失敗しそのどちらも持つ中途半端な生き物になった」

















クロアは心臓部分に手を当て鼓動を確かめて言った
























「人間でも人造人間でもない、格を二つ持つ未完成…それが私」
























そう





















「お父さんは私を愛してなんかいなかった。偽りでも愛してくれていたと私がいくらごまかそうとも、それは変わらない真実」





















だからクロアをバケモノにする研究の対象に出来た







わかっていたけれどごまかして真実から目を逸らした







クロアはそこまで言うとつーっと頬に涙が伝った

































「…愛されたかった…誰かに好きになってもらいたかった…っ」

































そう呟けば大粒の涙が零れ落ち、それを真実が優しく拭った













「…愛されたいと願った者には偽りの愛も好意をもってほしいという想いすらも忘れる」





「え…?」





「通行料は記憶だ」













確かにクロアの罪に見合った通行料だった















「だがお前は友達だ。もし記憶を失って尚誰かに愛されたいと願ったなら…少しずつ記憶を返してやる」















愛されるなら本当の自分を知って愛してほしいだろ?と真理は続けた












「でも本当のこと知ったら……」





「それもまた試練だろ」





「…うん…」













弱々しく頷けば真理は真っ白な宙を見上げた


















「もう時間だな」





「…また…会えるといいね」





「会えるさ。次会う時はお前が誰かに愛されたいいと願った時だ」





「うん」





「幸せになれよ」





「うん」





「じゃあな、俺の最初の友達」





「バイバイ、私の最初の友達」





「ああ、言い忘れてた…」













意識が薄れる中で真理はいつもの笑った顔で言った

































「HAPPY BIRTHDAY」

































ぴちゃん…っ








真っ赤な世界に少女は立っていた


















「ありがと……しん、り…」


















消え行く記憶の一部を口にし血の海に沈んだ















































「思い出したか?」











ふと聞こえてきた声に目を開ければ懐かしい真っ白な世界にいた













「真理…」













思い出した





私が犯した罪





私という未完成の存在





そして私の願い





すべてあの日に知っていた













「真理…っ」





「よお」













真理は手をあげそう言った





この間会ったというのに今は本当に久しぶりの感じがした





真理の笑った顔が懐かしかった













「久しぶり…」





「おう。そう言われるの楽しみにしてたんだぜ?」





「うん…久しぶり……会いたかった…っ」













零れそうになる涙を堪え真理に抱き着いた




真理はふっと笑い私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる













「愛されたいと思ったか」




「うん…」













私を拾ってくれたロイに






居場所をくれたリザさん、ハボック、ブレダ、ファルマン、フェリー曹長に






一緒に旅してくれたエド、アルに






家族と言ってくれたラスト、グリード、グラトニー、ラース、お父様に























そして









いつも私の傍にいてくれた

















エンヴィーに…




























記憶を失っても知らず知らずに心はその願いでいっぱいになっていた


















「…誰でも良い…愛して欲しい…っ




      私を…”私”という存在を…」



















研究対象でもなく、兵器でもなく













”私”を愛して欲しいんだ













「…もし愛してくれる人が現れたら?」





「え?」





「現れたらどうする?」


















”もし―――って言ったら…―――?”


















誰かに同じこと聞かれた気がする











「私は…」


















”…私は…―――”


















誰かに答えた気がする













「クロア」













記憶を巡る私を真理が呼ぶ













「お前は罪を犯している」




「?」













それはお父さんを…













「違う。父親を殺したことじゃない」













真理は私の心を読んだように言った





お父さんを殺したことじゃない?





じゃあ?















「わからないか?」





「…うん」





「それがお前の罪だ。記憶を失ったことが罪なんじゃない。











  思い出せないから罪なんだ」















真理の言葉が真っ白の世界に響いたその時





背後の扉が開き黒い手が腕を引いた




























「またな、」




























真理の言葉が最後まで紡がれる前に扉は鈍い音を立て閉まった


















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