鋼の錬金術師

□第27話
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「ただいま」










突然だった





突然父は帰ってきた





私の13歳の誕生日の日に










「お父さん…?」










起きたばかりの私には現実なのか夢なのかわからなかった





だけど腕を回し父の温もりを感じた時










「お父さんっ…!」










現実だとわかって涙が零れた





学校に行っていない私には友達もいない





優しいお母さんもいない





もう私にはお父さんしかいなかった












「クロア…寂しかったか。すまなかった」






「ううん。お父さんが研究一生懸命なの知ってるから…大丈夫。おかえりお父さん」






「ただいま。私の愛しいクロア」












微笑んで私の頭を撫でてくれるお父さんの手は温かかった






お父さんの温もりが嬉しかった







そしてお父さんと誕生日を祝うという想像を胸一杯膨らませ







夜になるのを楽しみに待っていた



















この夜に








なにもかもがが壊れてしまうとも知らずに








この運命の日を忘れるとも知らずに





















ただただ











夜を待っていた

























「少し大きすぎたかな」




「大丈夫、私がいっぱい食べるから。凄い美味しそう」










目の前に出されたケーキを見て私は目を輝かせた











「対したプレゼントもなくてすまないな」




「そんなことない。お父さんが帰ってきただけで嬉しいから…っ」











ただそれだけが嬉しかった





プレゼントなんてなくて良い





この”時”こそが最高のプレゼントなのだから











「さあ食べようか」




「うん」











私は机に置かれたフォークを持ち目の前のケーキを突いた










「うん、おいしい…っ」




「それは良かった」










ケーキを次々と口に運ぶ私を見てお父さんは微笑み自分もケーキを食べ始める








幸せだった








大好きな父と誕生日を祝うことなんてもうないとも思っていた








もしこれ以上の幸せがあるのならそれは








母のいる家族3人の世界だろう















「あ…」















そこで私は思い出した







お父さんに伝えようと思っていた







お母さんを生き返らせるという











私の希望を

















「ちょっと待ってて!」

















私は一旦フォークを置き自分の部屋から大きな紙を持ってきた











「あのね、私お父さんに知らせることがあるの」




「ほう。なんだ?」











にこにこと笑顔で紙を広げる私





それに見て目を見開いた父




















「人体錬成の理論!もう用意してあるんだ!これでお母さん生き返らせて…そしたらまた3人で…――」




















パンッ




















乾いた音が部屋に響いた




















「……え?」




















何が起きたのか一瞬解らなかった






叩かれた事に気付いたのは






頬に熱を感じた時だった











「お、おと…さん?」











握られた父の手は震えていた













「人体錬成なんて…馬鹿なことを…!」





「…だってお母さんが生き返るんだよ?」





「あれはいらないだろう。研究の邪魔ばかりで役にも立たん」













そう言い放った父が信じられなかった















「なに、それ…じゃあお母さんが死んだ時心の中で笑ってたっていうの!?」















父は小さく笑った










知らない















「いいや、笑ってはいない。感動したのさ、すべて計画通りにいくこの様が」















こんな父を私は知らない















「計画通りって…まさか…お母さん、殺したの…?」





「ああ」





「なんで…!」















こんなこと言う父は知らない















「邪魔だったからだ」
















たったそれだけの理由で殺したというのがどうしても受け入れられなかった















「嘘でしょ…?」





「嘘ではない。研究の為にお前の母を殺したのだ」















研究






お父さんはそればっかりだった















「研究、研究…っ…そんなに研究が大事なの!?」













私はいつも研究熱心だったお父さんを尊敬し憧れていた






それは確かだったはずなのに






今はそんなお父さんが疎ましい






















「何を言う。この研究があるからこそ私はお前を愛しているのに」






















父の言葉が耳に残り目を見開いた




















「この研究で私はお前を愛せるんだ」





「どういう…」




















どういう意味?







そんなの知りたくない







知れば全てが消えてしまうから


























「研究対象でもなんでもなければ私はお前を愛してなどいない」


























急に背筋が凍った様に寒くなった







何故自分が研究対象でなんの研究対象なのか、そんなことを考えることなんて出来なかった






もう何も信じたくなかった






















「誰がお前みたいな化け物もどきを愛すると?」









”愛されてるって本気で思ってんの?”









「やめ…て…」








「子供など元々欲しくなかった。愛することなど出来なかった。だが研究対象となったことでやっとお前を愛せたんだ」









”そんなの偽りの愛でしょ”









「い、や…っ」








「お前自身など愛してなんかいない」









”本当に愛されてなんかないんだよ”









「やめてっ!!」

























一粒の雫が床へ落ちた


















「クロア」


















恐る恐る顔を上げればお父さんは私の目をしっかりと見ていた























「真実は時に残酷なものだ」























ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる














「私を憎むか?」














もう目の前にいるのは私の大好きなお父さんではない










いや










そんなもの最初からなかった










優しい父などいない









私を愛してくれた父などいない









愛なんてない










何もなかったんだ

































それが































真実


































「…ぐ……っ」










漏れた声は私のものではなかった







ぽたっ







涙と共に落ちるのは真紅














「流石…私の娘…っ」














気付けば私は手に持ったフォークを父の胸に突き立てていた







父の服に血がじわじわと滲んでいく















「っ…最後の、誕生日…プレゼント…だ」















父が私の胸に手をあてるとまばゆい光を放った







その瞬間















ドクンッ!















鼓動が大きく脈打った











「な、に…」





「ふ…これ、で…完成だ」











血を流しながら父の身体が崩れ落ちた





笑みを浮かべながら

















「…これでお前は、あいつらと…同じ…」




























『バケモノ』




























父はそれ以上何も言わなかった







ただ微笑みながら







静かに目をつぶった























「お父…さん……?」












我に帰れば







真っ赤な血の海に沈む父を見つめ







その中心に立っていた







その時やっと自分のしたことを思い出した















「お父さん…!お父さん!!」















例え偽りでも父は私を愛してくれてた







私を愛してくれたたった一人の人を







たった一人肉親を



















私はこの手で

















殺してしまったんだ


























「…あ…う…わぁぁぁああああああ…っ!!!!!」

























偽りの愛だったとしても






父と過ごした思い出も






父の温もりも






嘘でも幻でもなかったのに…
















「おと…さん……!ごめんなさい!ごめんなさい!お父さん!!」

















零れる涙は止め処なく血の海へと落ちていく







そしてその海に浸る紙が目に入った
















「……人体…錬成…」
















母を生き返る為にずっと研究してきた人体錬成の理論







私は急いでペンを走らせ父を中心に錬成陣を書きはじめた


















「お父さん…」


















父の顔をそっと撫でる























「これがただ真実をごまかしているのはわかってる…」























両手を父の胸にあてれば光が放った








































「それでも…もう一度…















  私を愛して欲しい……っ」





































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