鋼の錬金術師

□第26話
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がちゃ





ドアノブを回すが鍵の感触を感じた









「鍵……」









ポケットから古びた鍵を取り出し鍵穴に入れる









「鍵持ち歩いてたんだね」




「そりゃ…自分の家だからね」









本当はもう開ける事などないと思っていた





軽く捻ればガチャンと家の封印を解く音が響いた





一つ深呼吸をしてもう一度ドアノブに手をかける









「………っ」









ドアノブを引けば重いドアがぎぃと音を立てて開いた





ドアの先には暗黒の世界が広がっていて生暖かい風が中から吹いていた











「……行くよ」











暗黒の世界に一歩足を踏み入れる


















































「アル!行くぞ」




「うん!」







エドとアルが部屋を出ようとしたときそれを阻止するかのようにロイが言った








「待ちたまえ」








エドもアルも一瞬振り返りまた視線を戻した









「大佐が何を言おうと俺達は行くぜ」




「僕達は真実が知りたいんです」









するとロイは椅子から立ち上がりエド達に言う










「…案内しよう。クロアの家は私と中尉しか知らない」






「大佐…」










エドもアルも気付いていた








自分達よりもロイはクロアを心配していることを







自分達よりも真実を知りたがっていることを








大切な家族のように想ってきたロイだからこそ











「日が暮れる前に行くぞ」









































「……この匂い…」




「血だね」












ドクン












呼んでる






この匂いが私を呼ぶ












「ちょ…クロア!」









エンヴィーの呼ぶ声も聞かず私は少し奥へと進んだ









「……う…あ……っ」









テーブルも床もすべてがどす黒い赤に染まっていた









「クロア!此処はまた後で来よう。少し落ち着いてから…最後でも大丈夫でしょ」









私は頷いてリビングから離れた






リビングこそがあの事件で大佐が私を見つけた所だ






大佐はリビングで血の海に横たわる私がいたと言っていた












その大佐の話に妙な違和感を感じていた





私があの日覚えていたのは…














血の海に”立っていた”ことだけ














この微妙な誤差はなんなのだろう





そんな疑問もエンヴィーの言葉によって私の頭から掻き消された











「クロアの部屋どこ?」




「……こっち」











クロアはドアノブに可愛らしい板が吊されていりドアを開けた









「……っこれ」



「…いつ書いたんだろう…こんなこと…」









クレヨンで汚れた壁





一般的には可愛らしい絵が描かれていたり子供のよくある悪戯書きが見られるのだろう





しかしその部屋は違った











”人間”






”バケモノ”











壁はその文字で埋まっていた









「…病み期、だったのかな…?」



「病み期って…自分で言っちゃう?」









これを書いた時を思い出せはしないが





やはり此処には戻ってきたのは正解だったようだ





ふと机に目をやると小さな紙切れを見つけた











「人体錬成」




「え?」




「人体錬成に必要な大人一人分の材料が書いてある」











私は机に散乱した紙切れをエンヴィーに見せた










「クロアって何気頭良かったんだね」




「喧嘩売ってんなら買うよ」










そして錬成陣などが書かれた紙も見つけた








「頭の良さはノアに似たんだね」



「勘の良さはお母さん似」








ふとエンヴィーは何かを思い出したように言った









「クロアのお母さんってどんな人?似てた?」



「…何いきなり…自分で殺した人の顔も覚えてないの?」









エンヴィーはへらへらした顔からすっと申し訳なさそうな顔になった












「………ごめん」












最近のエンヴィーは妙に悩んだり辛そうな顔をすることが増えていた





特に今回のこの件では











「憎んでるよね…」




「………憎んでないよ」











クロアは一つ溜息をついてエンヴィーをみた











「しょうがなかったんでしょ。それに憎むなら私はお父さんを憎むよ」













『私を憎むか?』













ドクンッ













「クロア?」




「い、いま…」








お父さんの声がした気がした




それに急に頭痛がし始めた









「クロア?」




「ごめん…なんでもない…お父さんの部屋行こう」









私は父の部屋に足を進めエンヴィーはその後に続いて歩いた





一つのドアの前に私は立ち止まった









「昔はこの部屋に入れて貰えなかった…だから一人前の錬金術師になったら入れてもらおうとしてたのに…まさかこんな形で入るなんてね…」




「クロアはもう立派な錬金術師じゃん」









ギギッ






重く頑丈な扉が開く






部屋の中空気は重く今でも父の荘厳さが残っているようだった











そして












散らばる紙





壁中に張られた錬成陣





難しい言葉の書かれた書類





見れば見るほど研究に費やす父の姿が浮かんできた











「これ…この書類……研究内容……?」











床に散らばるたくさんの書類を拾い上げた瞬間











「ごめんね」











そうエンヴィーが小さく呟いたのを私は知らない





私は書類に目をやった











「…………どう、いう…こと…」











”錬金術を使う人造人間”












錬金術を使える人造人間なんか存在しない





表紙をめくれば信じられないような事ばかり書かれていた











”錬金術を使う人造人間がいればそれこそ最強の人造人間ではないかと私は思い、この研究を始めた”







”ラースのような人間ベースの人造人間は錬金術が使えない。元々人造人間は錬金術を使うことが出来ない。”







”では、錬金術を使える人間を人造人間にするのはどうか?”







”問題点は賢者の石の拒絶反応が出た場合と、人造人間となったときに錬金術を使えるのかどうかだ。”







”この研究に適した人材は以下である。錬金術の才能があり知識在る者。研究を拒まず協力してくれる者。何時でも監視が出来る身近な者。”














”以上の事から私の娘、












 クロア・ロードを研究対象とすることを決定した”
















ドクンッ















私は自分の目を疑った





初めて知った研究内容





そして自分が研究対象とされていたこと











「うそ、でしょ…」











『嘘ではない』











「だって……」











『研究の為にお前の母を殺したんだ』











「……っ」











クロアは部屋を飛び出しリビングに向かった











「…クロア」











勢い良くリビングに駆け込むと血の跡の残る床とテーブルを見た











『クロア』











「…あ…っ…い、いや…」


















割れた皿
























熔けた蝋燭

























そして





































「いやぁぁあああああ!!!!!」







































『真実は時に残酷なものだ』































真っ赤に染まったフォークがそこにはあった























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