鋼の錬金術師

□第25話
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「もうすぐ…」







私は人気のない山道を一人歩いていた





私の家は結構山奥だった





それでも何件か家が建っているような場所だったが





今ではほとんど家は減っていた





山奥で不便という理由もあるが多分










私の家があったからでもあるだろう









父の研究が怖いといって逃げるように引っ越す人もいたから





そして今その家に向かう理由












父の研究所



私の部屋



人体錬成を研究していた部屋



あの日立っていた部屋











人体錬成を研究していた



ならその結果は…?



お母さんは生き返ったの…?











全部あの家に行けばわかる気がする






行かなきゃいけない






逃げちゃいけない














例え真実が残酷でも















「はぁっ…はっ……」







家に近付けば近付くほど





鼓動が速まる



胃が痛くなる



息が苦しくなる



足が震える





クロアは歩いては止まりを繰り返していた



山道なのもあるが



それ以上に精神的な面で疲労がきていた








「もう…少しなのに…っ」








足が進まない







「…っ」







がくっとひざまづきそうになった




しかしつくはずの膝は地面につかず




代わりに腕を引く感触があった









「大丈夫?」




「エンヴィー…なんで此処に…」




「とりあえず休もうか」









エンヴィーに支えられながら木陰に移動し腰を降ろした








「無理してるでしょ」




「別に…」








エンヴィーは溜息をついてクロアの隣に座った







「意識朦朧としてるのに?」




「…っ!これは…!」




「クロアはホント素直じゃないよね」








エンヴィーはそう笑ってクロアの頭に手を乗せた













「俺も着いていくよ」





「……え」













その言葉にクロアはぽかんとしていた









「な、なんで」




「クロアにとって大切なことなのに俺が行かなくてどうするのさ」




「はぁ?」










クロアも「意味わかんない」と言いながらもくすくすと笑っていた

















「どんな時も傍にいるよ」






「…ありがと」

















赤くなった頬を隠すように立ち上がりエンヴィーを見た





不思議と震えは止まっていた





















「行こう」





















歩き出そう










貴方と一緒なら…
































「鋼の…それは、どういうことだ…」





「言った通りだ。ノア・ロードは事故に見せかけてリフェ・ロードを殺したんだ。研究に邪魔だったから…」




























「お母さんが邪魔だったっていうのは…なんとなく気付いてた」




「そうなの?」







家を目指し歩いていると途中父と母の話になっていた







「昔からね、仲良くなかったんだ。お父さんとお母さん。しょっちゅう喧嘩してた」








母は錬金術が嫌いだった





毎晩私が寝付いた頃に喧嘩していて





それを知ったのは私が5歳くらい





本格的に風を操る錬金術を教わっていた時だ









”これ以上あの娘に教えるのはやめて!!”









母の怒鳴る声で私は目を覚ました





扉の隙間から覗くと父と母が言い争っていた








”君は錬金術の素晴らしさを知らないから”




”素晴らしい!?錬金術なんてただの人を殺すものに過ぎないじゃない!”




”………君にはわからない…”











母の泣きそうな声




父の冷静な声








幼かった私にはわからなかった





何故お互いそんなにも悲しい顔をしているのか








”…クロアに何をするつもりなの…”




”………”




”あの娘を研…―”




”クロア”










びくっ




突然名前を呼ばれ身体が跳ね上がった









”寝付けないのか?”




”う、うん…”










盗み見を知っていたのか母が何かを言おうとした瞬間に私の名前を呼んだ





直ぐに私が聞いてはいけない話だとわかった









その日からだ









その日から頻繁に喧嘩をする2人を良く見るようになった





毎晩のように喧嘩をしていた





会話はもう記憶には残っていないけれど…





私の前でも喧嘩するようになっていった





そしてそれが私の日常になっていたんだ





ある日喧嘩も少なくなりやっと落ち着いてきたと思った











そう





それがあの日











私の7歳の誕生日だった












「落ち着いたと思ったのもお父さんの計画の内だった…」




「…………」









研究の為に母を殺した…




母を殺す程の研究…










「エンヴィーは知ってるんでしょ。なんの研究をしてたのか」




「………」




「沈黙は肯定とみなすよ」




「…………」










エンヴィーは口を開かなかった











「大体予想はつくよ。私にとってそれは…あまり嬉しくないことだろうね」





「俺は…っ!」











泣きそうな顔をするエンヴィーを見たのは初めてかもしれない

















「俺は…どうすればいい……っ」

















それは質問に答えられないエンヴィーにとって精一杯の言葉だったに違いない




そんなエンヴィーに私は微笑んだ


















「エンヴィーは何もしなくて大丈夫だよ。私が全部終わらせる。だから傍に居てくれるだけでいい…




  エンヴィーが一緒なら…」


















貴方が一緒なら…

























「私は前に進めるから」

























何も言わずエンヴィーは私を力強く抱きしめた











「…さて、もうすぐ着くよ。エンヴィー」




「大丈夫?」




「…大丈夫。エンヴィーがいるから」











ぎゅっとエンヴィーの手を握る





エンヴィーはそれを優しく握り返してくれた













そして





堂々と建ち聳える





一軒の家が見えてきた












ああ…









ついに…












帰って来た
































「邪魔な母親を殺す程の研究とは一体何だというんだ…」




「…そう。それですよ大佐…」




「俺達はそれを知ってしまった…!」








エドはぐっと力いっぱい拳を握り、アルも少し震えていた








「研究資料の暗号を解いたのか…」




「ああ!解けた!解かない方が良かったッ!」








乱暴に研究資料を机にたたき付けるエドをロイは冷静に見つめていた








「報告したまえ」




「…っ」








エドは歯を食いしばり研究資料を一枚ロイに渡たす




ロイはそれを見て目を細めた









「…どういう意味だ?」




















”風を司る人造人間”




















紙にはそう書かれていた







「それがノア・ロードの研究…」




「ノアは自分の錬金術を使える人造人間を造ろうとしていたんだ…!」




「そんなこと…出来るはずがない!」








「ああ!だからッ…!



  だから…あいつを使おうと思ったんだろ…っ」









ロイが紙にもう一度目をやる




先程の言葉の下にもう一行言葉が書かれていたのに気付いた









「…………これはっ…、」























”風を司る人造人間





















賢者の力我が子に示せ”























「ノアは自分の娘に賢者の石を取り込み錬金術を使える人造人間を造ろうとしたんだ!」







「そんな馬鹿な話があるかッ!!」











バンッ!!












机を叩く音が部屋に響いた












「…この資料にはそれしか書いていなかった。実際それを実行したのかはわからねぇ…」






「……クロアは…人間だ…っ」













静まり返った部屋でロイは顔を伏せた


















「兄さん」




「ああ…」




























「クロアに会いに行こう」























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