鋼の錬金術師

□第24話
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「いい子にしてるんだぞ」





「…うん……」







8歳になったばかりのクロアにとってそれは衝撃的で突然すぎた





ノアは自らの研究の為家を出ると言い出したのだ









「何かあったら電話するから」









そう言ってノアは扉を閉めた






一人になったクロアは今なお扉を見つめていた








既に母を亡くしているため家はクロアただ一人





しかし寂しい気持ち半面




嬉しい気持ちもあった











「研究…!これでどうどうと研究できる」











クロアはノアの研究室に入り本を漁り出した







悲しさを紛らわす為の唯一の











「おかーさん……すぐ会えるから」











希望












母・リフェが死んでからクロアは必死に母を生き返らせたいと思っていた






クロアはその方法を探し





そして見つけた













『人体錬成』













例え禁忌だと知っていてもクロアの心を癒すものはそれしかなかったのだ








「う……りかいできない……。どうして…………あああぁぁ!もう!」








だいじょうぶ




私にはおとーさんの血が流れてるんだから




りかいできないものなんてない




ぜったいおかーさんを生き返らせる…









待ってて…









おかーさん…































「ふぁ…っ……朝…?」





目を開くとカーテンの隙間から日の光が差し込んでいた






「よぉし…」






素早く白いワンピースに着替えるとクロアは思い切って扉を開いた






「ん。いい風…」






家から少し離れたところでクロアは手を空にかざす









ぱきん









小さなその音が鳴ると風は静かに動きを止めた





錬成反応がほとんどなくここまで風を操れるようになったのはクロアが毎日錬金術の訓練をし





父であるノアを師にもったからであろう










「………あ」










クロアが何かを目にした瞬間




風は再び動き出してしまった









「…お、おい…!見ろよ…」





「……」









クロアが目にしたのはクロアと同じくらいの歳の男の子達だった









「バケモノクロアだ!」




「っ…!」









その言葉にクロアは眉を寄せる









「バケモノ!」




「悔しかったらじまんの風で俺らを殺してみろよ!」




「はははっ!無理無理!出来っこないよ」









少年たちの黄色い声は頭の中にまで響いた





今のクロアの錬金術なら彼らを殺すことは簡単だ





しかしそうするには『バケモノ』という単語に心が乱れなくならないといけない










「いつか…望み通り殺してあげる…」





「あはは!聞いたか!バケモノがいつか俺らを殺すってよ!」










バケモノ、バケモノうるさいよ





私はバケモノじゃない





人間だよ





あんた達と同じ





小さな人間だ












クロアは少年達から向きを変え家に戻った





家まで彼らの声は届いていた









ばたんっ!









勢いよく扉をしめるとクロアはその場に座り込んだ










「私…バケモノじゃない……!ただの人間…なのに…うっ……」










涙は音をたてて落ちた


































「あー!わかった!」






父が出て行き一年が経とうとした頃だった





私は満面の笑みで自分のノートを見つめる








「もう少し…」









ジリジリーン









突然ほとんど鳴らない電話が鳴った





恐る恐る私は受話器を取り耳を当てた









「も、もしもし…」




「…クロアか…内乱の被害にはあってないか?」









それは一年ぶりに聞いた声だった










「お父さん…!うん!大丈夫だよ!あのね…!」










今すぐにでも伝えたかった





人体錬成で母を生き返らせようとしていることを





きっとお父さんも喜ぶ…

















「クロア」













ドクン

















伝えたかったはずなのに





名前を呼ばれた途端言葉が出なくなった








「クロア…もうすぐイシュヴァール殲滅戦が始まるんだが…クロアにも出てきて欲しい」





「…わかった」








迷いは不思議となかった





わかっていた





いつか自分が人を殺すようになることを





誰かに教えられたわけでもないのに





そうずっと感じていた











「じゃあ中央で待ってる」











ガチャン







受話器を置くとさっきより部屋は静寂に満ちた





荷物をまとめ家を出ると遠くから声が聞こえてきた









「うわ!バケモノだ!」




「また出たなバケモノ!」




「…………」









いつもの少年達だったが





もう誰の言葉も届かない





私の心はいつもより落ち着いていた










「へっ!いつか俺達のこと殺すっていつになんだよ出来ないくせに!」







「舞え」







「え?」


















懐かしい人影を見つけ近付く







「お父さん」




「クロア。来たか」







この日





私は初めて人を殺した




































「…」




「少年達は?」




「私が殺した…初めて殺した人間はイシュヴァール人じゃなく少年達だった…」







気付けばまた真理がに立っていた





扉の中から戻ってきたのだ










「それに…人体錬成なんて……」










そこまで言って私はあることに気付いた









「……真理…私確かめなきゃいけないことがある…」




「おお。行ってこい」









真理の言葉を聞き目をつぶり再び目を開けると元いたエンヴィー達の戻っていた









「クロア!…急に倒れるから…心配したんだよ…!」




「大丈夫かクロア!」








心配したエンヴィーとグリードは近付いたがお父様は遠くから私を見つめていた









「クロア…何か……思い出したのか?」



「…少し…ですけど」





「…何処まで?何歳の記憶?」









何故か食いついてきたのはお父様ではなくエンヴィーだった








「…えっと…お父さんが出ていってからイシュヴァール殲滅戦の日まで…」




「…そっ…か……」









エンヴィーが一瞬だけ悲しい顔をしたのを私は見逃さなかった








エンヴィーは何かを知っている








そして私にそれを思い出して欲しいと思ってる









「でもイシュヴァール殲滅戦のことは思い出したんだね」




「エンヴィーのお陰だよ。ありがとう」









そう言うとエンヴィーは顔を私から反らした




エンヴィーの頬が若干赤かった事を私はその時知らなかった













「エンヴィー…」






「ん?」






「思い出すから…全部思い出すから。時間はかかると思うけど…」













エンヴィーは目を見開いた




しかし直ぐにいつものように笑った









「あっはっは!クロアじゃ何年かかるんだか!」




「な!馬鹿にしないでよね!絶対思い出して…」









言葉はエンヴィーの唇によって途切れた





長くも短くもないキス




















「ありがとクロア」




















何故か無性に泣きたくなった




















「何百年でも待ってるから」




















優しく頭を撫でるエンヴィーの手を取り微笑んだ












「行ってくるね」





































「どうした?」





《大佐。許可を下さい。家に入る許可を》





「…何か核心を得たようだな…わかった許可しよう」





《ありがとう…ロイ》








ガチャン









受話器を置くと今度は勢いよく扉が開いた








「「大佐!!」」




「急に何だね!来るなら来ると…」




「大佐…クロアの父親の暗号解けたんです…」




「あいつは…!ノアは…!!」




















この時







皆が思った













この長かった物語ももうすぐ全て終わると






















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