鋼の錬金術師

□第21話
1ページ/2ページ










「イシュヴァールの民を殺せ」









ノアに呼び出されたクロアは目の光が消えていて虚ろな目をしていた





「うん…わかった」





「褐色の肌に赤目だよ」





「うん」





クロアが歩き出そうとするとノアが呼ぶ声がして立ち止まった





「クロア。おいで」





「君がクロアか。初めまして」





ノアの隣に来た左目に眼帯を付けた男がクロアに話し掛けた





「……初めまして…」





「ラース。この子の参戦させてもいいか?」





ラースと呼ばれた男は頷いたがクロアはというとどこか遠くの一点を見つめて黙っていた





「クロア?」





「…殺気」





クロアはどこかを見ながらそう呟くと手を突き出した








「吹き飛べ」








そう言ったのと同時に風が舞い上がりクロアの見ていた先に竜巻が起こった





「ぐわあああ!!!」





その声は影に潜んでいたイシュヴァール人のものだった





男は竜巻に呑まれ空高くまで上がるとふっと風が止み男は真っ逆さまに落ち地面にたたき付けられた





「皆あなたをねらってるよ」





クロアは光のない目でラースをみた





「キレイに消してあげようか?」





ラースはにっと笑った





「頼むよ。小さな錬金術師君」





その言葉を聞くとクロアも少しだけ微笑み目をつぶった








「かまいたち」








そう言ったのと同時に目を開く





その瞬間突風が吹き荒れた





ノアもラースも突風により目を塞がずにはいられなかった





「うわぁぁぁあ!!」



「ぐわぁあ!!」





イシュヴァール人の断末魔が聞こえたかと思うと風は止み2人共目を開く





「キレイに消えたよ」





目を開けた先には辺り一面何も無くなった景色だった





「見事なり。今君に相応しい名を思い付いた」





「?」





クロアは首を傾げた





「風で葬る”風葬”の錬金術師。そう名乗ると良い」





「ふうそう…?」





「ラース!この子に国家資格など早過ぎる…!」





「わかってる。もう少し経っていつか資格を取りにきたときに正式に付ける名だ」





ノアはそれ以上は何も言わなかった





「では後は頼むよ。風葬の錬金術師君」





そう言うとラースは2人に背を向け歩き出した





そしてクロアはラースと逆の方向に歩き出した












































「兄者!」





だいぶ時間が経った頃何処か遠くでそんな声を聞いた





クロアは服にも顔にも血をつけたまま声のする方に向かった





「!!」





向かった先には男が2人いてクロアに気付くと目を見開いた






「こ、子供…?」





「兄者!近付くな!アメリスト人だ!罠かもしれない」





「いや、この子1人だ。傷も負っている」





確かに傷を負っていた



ついた血は返り血だったが兄の方の男がクロアの腕を引き傷を手当し始めた





クロアにとって2人を殺すことは簡単だがクロアは2人に何処か魅入っていた





「兄弟?」





「あ、ああ。あっちが弟だ」





初めて口を開いたクロアの質問に驚きながらも兄は優しく答えた





「…うらやましい…」





「一人っ子か?」





弟の方がクロアに聞いた








「うん。兄弟がうらやましいのもある…けどそれ以上に…



おたがいを必要とし、愛されているのが…








      うらやましい…








クロアの言葉は今にも消えてしまいそうだった





その時遠くから数人の声が聞こえた





「兄者!此処にいては見つかる!」





そういって2人はその場を離れようとしたがクロアだけはその声がするほうに歩き出した





「誰だ!!」





そこには銃を構えた軍人が2人いてクロアの姿を見つけ驚いた





「こんな所に子供!?」





「!!!子供の後ろを見ろ!イシュヴァール人だ!」





軍人が2人を見つけたかと思うと銃を向け引き金を引こうとした





2人はもう駄目だという表情をしていたがクロアは無表情のまま銃口を見つめていた








ドンッドンッ








銃声は鳴った





しかし弾は2人に当たらず軍人2人は驚いて辺りを見渡した







「誰が撃っていいって?」







カランカランッ





クロアの手の中から二発の銃弾が落ちる












「全ての空気は私のもの」












軍人達は目を丸くし開いたままだったの口を大きく動かした





「き、貴様!!」





「待て!…まさか大総統閣下の言っていた風葬の錬金術師か!」





クロアは黙ったままで答えようとしなかった





「大総統閣下のお気に入りと聞いたがその方の命令を無視するきか!イシュヴァール人を庇ったのを知られればどうなるか…」









「誰が知らせるの?」









クロアがそう言うと軍人1人が真っ赤な血を流して倒れた





ほんの一瞬だった





そしてもう1人の軍人も仲間がやられたことに驚いた一瞬の間に軍服の青は赤に変わった





あっという間に2人の軍人は風の餌食となった





その一部始終を見ていたイシュヴァール人は目を丸くしていた





「国家錬金術師だったのか…何故殺さない…」





クロアは振り向き無表情のまま答える










「キレイで美しかったから…兄弟愛がとても…それだけ」










そして2人を残しクロアは歩き出す







「待ってくれ!」





「兄者?」





兄の方が呼び止めるとクロアは素直に立ち止まった





「君の名前は…?」











「……風葬の錬金術師









     クロア・ロード…」




























































「はっ…はっ……これ…」





「思い出したか?イシュヴァール殲滅戦の日のことを」





気付けば真っ白な世界に戻って来ていた





「それがお前の記憶の一部だ」





「なんで貴方が…?」





そう聞くと人型はにっと笑った





「俺は”一”であり”全”であり、お前達が”真理”と呼ぶものでもあり、そして俺は”お前”だからだ」





「私…?」





「そう。お前だクロア」





人型にそう言われ私はそれ以上何も言えなかった





「…スカーは私が生かしてしまった殺人鬼…」





「でも生きてほしいと思ったんだろ」





小さく頷くと人型はにぃっと笑った





「ならいいじゃねぇか…っと時間だな…せっかく久しぶりに会えたのにな」





「…っ!」





いつの間にか後ろにいた扉が再び開いた








「また此処で待ってるぜ」








手を伸ばすが扉に引き込まれていく












「っ……待って…





















   ――――――――――――――真理!!」


























クロアが手を伸ばした先には真理はもう消えていて代わりに驚いた顔をしたロイが視界に入った





「…クロア…!目を覚ましたか!」





突然ベッドから起き上がったクロアにロイは心配した顔をして近寄ったが、いつもと違うことに気付きクロアの顔を覗き込んだ














「クロア?






     泣いてるのか…?」







「…え」










頬に手をやると温かい涙が頬を伝っていた





「……久しぶりに君の涙を見た気がするな」





そうクロアに微笑みかけた













Next あとがき

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ