秘密の隠し扉

□居場所
1ページ/5ページ

居場所


俺が真選組に来て数ヶ月が経った。

慣れない環境に最初は戸惑っていたが、今ではだいぶ慣れた。

俺がこんなにも早く馴染めたのはまず近藤局長のおかげだろう。

あの懐が広い性格と豪快さに助けられた。

沖田隊長や山崎さんを始め、他の隊員達にも優しくしてもらった。

そして一番は…。

「土方副長」

俺を助けてくれ、真選組にいる事を許可してくれた人。

俺は土方副長に助けられた日、路地裏にうずくまっていた。

親が多額の借金を残して失踪。

バイトを掛け持ちして返していたが、先週、勤めていたバイト先の一つが潰れた。

そのせいで収入が減り、今月分の金を全て返せなかったのだ。

それでも取り立て屋は許してはくれなく、ついには家だけではなく、バイト先にまで現れた。

バイトが終わり、店を出たところで数人の男達に囲まれた。

逃げる間もなく捕まり路地裏へ。

その時持っていた所持金を全て奪われ、ボコボコにされた。

バイト詰めで疲れた体と暴行に俺はその場から動く気さえ起きなかった。

そんな時に現れたのが土方副長だった。

血だらけで倒れていた俺を無言で抱き上げ、真選組屯所まで連れて行ってくれた。

どこの誰だか分からない俺の手当てをしてくれ、食事や布団まで用意してくれた。

倒れていた事情を話しても俺を追い出さず、逆に匿ってくれた。

体調を崩しバイトが出来ず、家を含め必要最低限の物以外を売った俺を真選組に住まわせてくれた。

どうしてここまでしてくれるのか聞いても土方副長は一度も答えてはくれない。

でも沖田隊長曰く、俺の事を気に入っているかららしい。

もちろん変な意味ではなく。

それでもただの十七歳の、しかも借金首の男を気に入るだろうか。

正直、理解出来ない。

息子…にしては年が近すぎる。

それに俺は男だから可愛くも何ともない。

家事一般はそこそこ出来る。

だから俺は真選組に住まわせてもらえてるんだと思ってる。

本当のところは謎に包まれている。

だけど俺はそれでも良かった。

理由は何にしろ、此処にいていいと言われてるのが分かるから。

俺の家は此処だと言ってもらえてる気がするから。

そして匿ってもらってるにしろ、優しくしてくれているのが分かるから。

家と家族を失った俺には此処しか居場所がないんだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ