秘密の隠し扉

□災難
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災難


…俺は今、非常に困っている。

はっきり言って困っているなんて言葉じゃ済まされない。

何がそんなに困っているかと言うと…。

「っ…ぁ…」

俺の下半身を撫で回す手。

ぴったりと密着された体に時折り首筋にかかる熱を持った吐息。

そう…痴漢に遭っている。

「ひっ…」

小さな悲鳴に後ろにいる男が笑った気がした。

今日は久しぶりに部活が休みだった赤也と出かける事になっていた。

ホームで電車が来るのを待っている間、これからの事を話しているまでは良かった。

運悪く混んでいる車両に乗り込んでしまったらしく、アッと言う間に人波に流されてしまった。

そして俺達が落ち着いたのは対面しているそれぞれのドア。

その間には人、人、人。

とてもかき分けて行ける様子もなく、仕方なく降りる駅で合流しようとメールで話し合った。

こうなってしまった以上どうしようもなく、俺は窓から外の様子を眺めていた。

ちょうど落ち着いた場所がドアの端と言う事もあり、電車が揺れても支障はなかった。

そして何駅か過ぎ、電車が再び発車した時だった。

不意に尻に違和感を感じた。

最初は混んでいるから何かが当たっているんだろうくらいにしか思わなかった。

しかし急に強く尻を掴まれ、ドアの方を向くように押し付けられた瞬間、それは俺の勘違いだと分かった。

その証拠に背後から抱き込むように密着している男は執拗に下腹部を撫でてくる。

何故、男だと分かったと言うと尻に男の熱が当たったからだ。

「ぁ…んっ…っ」

そんな事を考えている間も男の愛撫は続く。

いつしかズボンのチャックは下ろされ、下着の中に直接手を入れられていた。

必死に声を出さないように唇を噛み、ドアを見ていると窓越しに男と目が合った。

ニヤリといやらしく歪んだ口元に吐気がする。

だいたいコイツは何を思って男に痴漢をしているのか分からない。

正真正銘のゲイなのか俺が引き寄せてしまったのか…。

認めたくはないが、俺には女だけでなく男も引き寄せてしまう雰囲気があるらしい。

おかげで男から告白された事も少なくはない。

その結果、俺は今、男と付き合っている。

今日一緒に出かけ、今は反対のドア付近にいる男。

アイツはお世辞にも背は高いとは言えないから、今の俺の状況を知るはずもない。
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