秘密の隠し扉

□居場所
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「綾瀬か、どうした」

後ろから名前を呼べばその場に足を止めて振り返ってくれる。

「バイトに行ってきます」

「一人か?」

俺の後ろを見て、土方副長は眉をひそめた。

俺が取り立て屋に追われていると知ってから真選組の皆は決して俺を一人にはしなかった。

体調が良くなり、バイトに行き始めても行き帰りは誰かと一緒だった。

それに金を取り立て屋に渡す時も必ず誰かがいてくれた。

おかげで俺は真選組に住むようになってからの数ヶ月を平穏無事に過ごせていた。

「はい。皆さん、任務や市中見廻りに行ったりしてますから」

「・・・・・」

俺の答えに土方副長は更に険しい顔をした。

そんな土方副長に俺は苦笑した。

「大丈夫ですよ、一日くらい。じゃあ、行ってきます」

そう言うと俺は土方副長の答えも待たずにその場を後にした。

たぶんあの様子だと絶対に納得していない。

だけどバイトに遅れる訳にもいかないから、心配してくれる土方副長には悪いけど、行かせてもらう事にした。

早く借金を返して楽になりたかったから。

それにいつまでも真選組の皆に頼ってちゃいけない。

真選組の皆には皆の仕事があるんだから。

「行ってきます」

返事はないと分かっていても数ヶ月の慣れか、自然と言葉が口から出ていた。

土方副長がいるけどあの様子じゃまだ厳しい顔をしてるだろう。

案の定、返事はなかったが俺は気にせず屯所を後にした。

その時に左右を確認してしまったのは仕方ないだろう。

やはり不安は完全には拭えない。

だけど街に出れば必ず何処かに真選組の皆がいる。

「(大丈夫…)」

自分に言い聞かせるように囁いた俺はバイト先に足を向けた。

この時…俺にもう少し注意力があれば…。

もう警戒心があれば…。

土方副長が渋ったように誰かと一緒に行けば…。





「お疲れ様でした」

今日のバイトも無事に終え、俺はバイト先を出た。

空には星が輝き、街は朝の賑やかさが嘘のように静かだった。

まだ歩いている人はいるが、圧倒的に数は少なく、今の時間の遅さを物語っている。

「ちょっと遅くなったなァ…」

本当のもう少し早く上がれるはずだったが、交代の人が遅刻し、その人が来るまで時間を延ばされてしまったのだ。
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