秘密の隠し扉

□風邪の治療法
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風邪の治療法


俺は表示された数字に深い溜め息をついた。

溜め息をついた俺に隣にいる人物は隠れるように布団を頭まで引き上げた。

「侑斗」

「…はい…」

「俺が来なかったらどうするつもりだったの?」

出来るだけ優しく声をかければ侑斗は布団からちょこんと目まで出すと伺うような目を向けてきた。

俺が安心させるために頭を撫でればボソッと答えた。

「…母さんが帰ってくるまで寝てる」

「この熱で寝れると思ってたわけ?」

「…怒るなよ…」

熱のせいなのかホントに俺が怒ってると思ったのか目尻に涙を浮かべた。

そんな侑斗に理性が揺れる。

ただでさえ熱で頬は上気し、苦しそうに呼吸をする唇が悩ましいって言うのに。

これで涙目なんかで見られたらいくら俺でも理性がもたないよ。

俺は崩れそうになる理性をなんとか持ちこたえ侑斗の髪をすいた。

「侑斗、風邪の時くらい母親に側に居てもらいなよ」

「大丈夫だと思ったんだよ。それに母さんに心配かけたくなかったし…」

そう言って再び布団に隠れてしまった侑斗に俺は内心溜息をついた。

侑斗の家は片親で飛鳥の母親が女手一つでここまで侑斗を育てた。

そのせいなのか侑斗は人に迷惑をかけるのを極端に嫌う。

そのためこうして風邪で倒れた時も母親に大丈夫だと言って仕事に行かせたのだ。

「侑斗はもう少し自分の事を大切にしなよ」

「…俺は十分大切にしてもらってる。母さんだって…英士だっているし…」

消え入りそうな声で言った侑斗に俺はついつい頬が緩んでしまった。

俺と侑斗は恋人同士だけど、侑斗は滅多に甘えてこない。

風邪だからかもしれないけど今の侑斗は素直で可愛いと思った。

「そう言えば、英士。学校は?」

布団から顔出して聞いていた侑斗に俺はごく普通に答えた。

「早退してきた」

「何で!?」

「何でって侑斗の看病するために決まってるでしょ」

他に何があるのと言った俺に侑斗はすまなそうな顔をした。

ほら、またそうやって他人を気にする。

今は一番自分の事を気にしなきゃいけない時なのに。
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