novel

□もしも、儚くも美しい天使に触れたなら
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昨日、俺は疲れた体を引きずるようにして家に帰ってきた。
平凡な学生だった俺にとって、ここ最近の日々はとても忙しい。

私立CR:5学園には、他の学校にはない特別なルールがいくつかあって、その中の1つに生徒会長は理事長が直々に任命するっていうのがある。副会長などの生徒会役員は選挙で決まるが、理事長が誰も任命しなければ、その年の生徒会長はいない。
ここ数年ずっと理事長の気に入る者が現れず、生徒会長の地位は空席のままだったんだ。

それなのに、何故か俺は高校2年生になって、突然その生徒会長とやらに指名されちまった。
以前から生徒会役員だったベルナルド、ルキーノ、ジュリオ、イヴァンを差し置いて、何故か部活にも入ってないし、学級委員もしたことがない俺が。
しかもイヴァン以外は反対するどころか、あっさり賛成して−−色々あったけど俺は生徒会長になった。
数年ぶりということもあって注目度は半端ない。仕事量も膨大。今までのんびり平穏な生活を送ってた俺には随分とハードな毎日だ。

でも、それ以上にハードなのは、生徒会役員達からの口説きとセクハラだった。

同じマンションの同じ階に住んでるから、当然のように登下校は5人一緒。
ベルナルドは隙あらばキスを仕掛けてこようとするし、ルキーノからは慢性的なセクハラを受けてる。太股とか腕とか尻とか。イヴァンは相変わらず暴言吐いてきたり怒鳴ったりうるさいけど、一番困るのは嫉妬だ。俺が他の生徒会役員やクラスメイトと一緒にいたりすると、すごく怒る。もう本当うるさい。ジュリオは俺のためだけに有名私立校から転校してきた変わり者で、信じられないことに俺を心底尊敬してる。まるで生まれたての雛鳥みたいに何処に行くでもついてくる。教室へも購買へもトイレへも、だ。おまけに俺にぶつかったりする奴がいると、そのままボコりに行こうとする−−−こいつらのおかげで俺には身が休まる時がない。
一緒に生活する時間が長くなればなるほど、あいつらの格好良いとこ、すげえとこ、可愛いとこが見えてくる。見えてくるけど、同時にすごくウザい。俺に対してだけ。
でも、俺からも言いたいことがあるわけだ。
心の底から叫びたい。


俺は男だっ!!!


男が男に迫られても全然嬉しくねーよ!
むしろ悲しい!


……女に迫られるなら大歓迎なんたけどな。

昨日、今までの出来事を振り返って嘆いていた俺は、その時、キラリと流れ星が落ちたのを換気のために開いた窓から見た。
その時は「あ、流れ星」なんて思って、ちょっと良い気分になって、それまで思ってたことが頭から消えた。
そして、そのままベッドに倒れ込んで熟睡。流れ星なんて今の今まで忘れてた。




もしかして、あれのせい?
俺の運があまりに強いから、冗談で神様に愛されてるなんて言われたことがある。
神様、もしかして俺の願いを叶えてくれたんだろうか。

まったく予期せぬ方向で。

確かに女だったらいいって言ったけど、まさかこいつらが女になるなんて!
いくら性別変わっても中身一緒じゃ意味ねーじゃん!
それに、もしも本当に俺が祈ったせいだったりしたら、すげえ申し訳ねえ……。

ああ、誰か……これは夢だと言ってくれ!



もしも、
儚くも美しい天使に触れたなら


(今すぐにあの願いを取り消してくれるよう頼むぜ! だって、こんなの有り得ないだろ!?)





09/09/15

題:DEEPTEAR

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