novel

□はたして遺伝か伝染か
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CR:5の幹部である優秀な社長の息子達、ベルナルド、ルキーノ、イヴァン、ジュリオには、月に1度、仕事より何より優先して必ず参加する重要な会議があった。

「……すまない、仕事が長引いてね。遅れた」
「おせーぞ。ジャンが帰ってきたらどうすんだよ」
「まあ、そう言うな、イヴァン。ベルナルド、とりあえず座れよ」

場所は自宅のリビング。
夜は家政婦も帰っているし、社長も滅多に帰らないこの家に暮らしているのは兄弟のみ。
この会議が開かれるのは、決まってジャンがいない日に限られている。彼がいない理由は、仕事が立て込んで遅くなったり、友人や彼女と遊んでいたりと様々だ。
それらはランダムに決まるため、この会議は早ければ1週間前、ギリギリだと当日の昼に招集がかかることもよくあった。

「ありがとう、ルキーノ。じゃあ、早速始めようか。」

席に座るよう促し、自分の分のコーヒーを淹れてくれたルキーノに礼を言って、ベルナルドは会議の開始を宣言した。
途端、ジュリオがある紙を取り出して、4人に配る。
ジャンの今月の予定表だ。

「現時点で、今月は特に、大きな用事はない」
「ああ。だが、15日あたりカヴァッリ顧問が出張に行く可能性が出てきた。ジャンもお供させられるかもしれん」
「可能性は大いにあるな」
「追記、しておく……」

全員が持っていたペンで予定表に書き込む。

「ジャンはこの前彼女と別れたから、今月入る予定は少ねぇはずだ。多分、週末は全部空いてるぜ」
「あいつも続かないよな。今度は何週間だった?」
「丁度15日、だ。……お互い、イメージと違った、らしい。ジャンさんが落ち込んでいる様子は……なかった」
「ベルナルドにきっかけがあったんだって?」
「ああ、うん。電話してたら誤解されちゃってね。ジャンに色々奢らされたよ……。楽しそうだったからいいけどな」
「電話してるだけで誤解されるってなんだよ、クソ! まぁ、俺はその分ジャンとドライブ行けたし、別れてくれて良かったけどな!」
「……」

イヴァンのようにはっきり言う人は誰もいないが、「別れてくれて良かった」というのは皆の本心なので、注意もせずに沈黙で返す。
ここらが話題の変え時だと思ったのか、会議などで役に立つ凛とした声で注目を集め、ルキーノが予定表のある日を指さした。

「じゃあ、今月は1週目の日曜日を俺にくれ。丁度予定が空きそうなんだ」
「俺は3週目の土曜日、もらうぜ」
「ジュリオはどうする?」
「俺、は……2週目の土曜日がいい」
「そうか。じゃあ、俺は4週目の日曜日にしよう。意義はないな?」

頷いて、全員でまた予定表に書き込む。

「平日の予定に関してはいつも通り、決まったら各自に連絡すること。あまりに回数が偏るようだったら月末に調整する。……他に何かないか?」

問いかけに一同無言。ベルナルドは頷いて、会議の閉会を宣言した。

「それでは、これにてG会議は終了だ」

G会議−−正式名称、ジャンカルロの予定を正式に把握する会議−−は、もともと昔から何故か誘拐されやすいジャンが自身では全く危機感を抱かないことを憂えて、代わりに兄弟がジャンの予定を把握して対策を立てておこうという目的から行われるようになったものだった。
しかし、それはいつの間にかどの週末に誰がジャンと遊ぶかを決める会議に変わりつつある。皆が平等になるようにしておかないと、兄弟間で無駄な争いが勃発するからだ。

「今月は、早く決まったな」
「ああ、先月は彼女のおかげでジャンの予定が空いてなくて、大変だった」

予定表をさっさと服のポケットに仕舞い込む。
万が一にもジャンにこんな会議を行っているとバレないように彼らの行動は徹底していた。それぞれ誘う時期もズラしているし、他の兄弟との予定は知らない振りをすることも多々だ。

イヴァンは以前こんな会議をすることに何の意味があるのかと唯一反抗した人物だったが、嫌なら来なくていいぞとルキーノにあっさり言われ、その後、ジャンに遊びに行こうと誘っても予定が全て他の兄弟で埋まっていた時に学習した。
この会議に出ないことは、すなわちそのままジャンとの隔離を意味する。
以来、毎月会議にはきちんと参加し、ジャンと遊ぶ日を手に入れていていた。

「ジャンさん、いつ帰ってくるんだろう……」
「そろそろじゃないか?」
「待ってらんねぇ。迎えに行ってくる」
「俺、も……」
「ルキーノはどうする?」
「ジャンもガキじゃあるまいし、大勢で迎えに来られても困るだろ。俺は飯でも温めてやっとくさ」
「じゃあ、俺はコーヒーを淹れようかな」

ソファーから立ち上がって動き出す。
兄弟の愛を一身に受ける青年が帰ってくるのは、もうすぐのこと。



はたして遺伝か伝染か

(みんなが彼を求めている)





09/09/10

題:joy

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