novel

□お絵かき
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その日、幼稚園から帰ってきたジュリオとイヴァンは、ジャンがいないにも関わらず、とても静かだった。
珍しくイヴァンが怒鳴っていないのだ。
2人とも先日買ったクレヨン片手に画用紙へのお絵かきに夢中になっている。
そんなに熱心に一体何を書いているのか。少しばかり興味を持って、ベルナルドは読んでいた経済新聞を畳み、2人の側に寄っていった。

「何を書いてるんだい?」

先にジュリオの作品を後ろから覗き込む。
画用紙の半分が黄色塗られていた。いっぱいに描かれた笑顔の人物は。

「ジャン、さん……」

目をキラキラさせて、幸せそうにジュリオが答える。頬は桃色だ。
(相変わらず、愛されてるなぁ)
ジュリオが握っている黄色のクレヨンだけ、他のと比べて半分も短くなっている。
ちなみに緑とピンクは殆ど未使用だ。
(何なんだろう、俺達って……)
その様子に、自分とルキーノの立場を思って少し切なくなったベルナルドは、気を取り戻してイヴァンの絵を覗き込んだ。

「イヴァンは何を書いてるんだ?」
「おれさまといぬだ!」

自信満々で速答される。
画用紙の中央に水色頭の人らしきもの、そしてその横に黒い犬らしきものが描かれていた。ごちゃごちゃしていて分かりにくいが、言われれば分かる。
黒い犬は恐らくラーヌだろう。イヴァンが好きなアニメのキャラクターだ。洋服や縫いぐるみも持っている。本人は決して好きだと認めようとしないが。
ただ、イヴァンの絵に描かれているのはそれだけではなかった。
イヴァンの画用紙には自分より小さくラーヌよりも大きく、自分のすぐ横、ラーヌとは反対側に黄色頭の棒人間のような人が描かれていた。そして、それらよりも小さく緑頭とピンク頭の棒人間。端っこに小さく紫の丸も描かれている。

「……!」

ジュリオの絵を見た後だけに、ジワリと目頭が熱くなるのをベルナルドは感じた。
そもそもこの息子達はいつもジャンにベッタリくっついて、ベルナルドやルキーノには全くと言っていいほど寄ってこない。
存在を忘れられてるんじゃないかと思う事もしばしばだ。
絵の下手さはまだ幼稚園児だから当たり前として、もしかして自分以外は全て犬扱いなのかとかアニメのキャラより小さいサイズなのとか、そういうことはこの際関係なかった。

「イヴァンありがとう!」
「うわっ! 何すんだよ! へんになったじゃねーか! クソクソクソ! 離せーー!!」

ぎゅうぎゅう抱きしめて頬ずりする。
ジタバタ暴れるのも気にしない。
(やっぱり良いなぁ子どもって)
ジャンがまだ幼かった頃、ベルナルドの絵を描いてくれたことなどを懐かしく回想しながら、イヴァンの柔らかさを堪能する。
思い切り楽しんでいたベルナルドは、ふと自分達を見つめる視線に気が付いた。

「ジュリオ……?」

呼びかけると、プイと画用紙に視線を戻してしまう。
だが、クレヨンを動かす速度が、先程よりも若干遅い。

「もしかして……」

イヴァンを離す。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる声も耳に入らない。
そっと近寄って、ジュリオの頭を撫でてみた。
ジュリオはイヴァン以上にジャンを溺愛しているから、拒否されるかと思ったが、意外にも抵抗はない。

「勿論ジュリオのことも好きだぞ?」

ジャンにしか興味のないジュリオがまさかと思いつつ、ドキドキしながら言ってみた。

「……」

返事はない。
やっぱりかとさほどショックも受けなかったが、頭から手を離した拍子に気づいた。ジワジワとジュリオの耳が赤く染まっていた。

「っ、お前らなんでそんなに可愛いんだ……!」

たまらなくなって、2人とも抱き寄せて、頬に熱いキスを送る。
完成した絵はリビングに飾ろう。写真も撮ってアルバムに貼ろう。そう決めた。

それから、おやつの時間には3人でアイスクリームとスティックキャンデーを食べて、ジャンが帰ってくるまでずっと、ベルナルドはイヴァンとジュリオのお絵かきを眺めていた。
穏やかで満ち足りた幸せな時間だった。



END
09/09/05

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