novel

□今日も我が家は平和です
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どこの家庭も朝は戦争だ。

「ほら、もうすぐバス来るぞ! って、ジュリオ、まだ着替えてんの!?」
「す、すみま、せん……」
「あーごめん。泣くな。誰にでも苦手な事ってあるよな。ほら、貸してみ。そこには頭じゃなくて腕を通すんだ」
「なんだよ! おまえ、ひとりできがえもできねーのかよ! バーカっ」
「こら、イヴァン! 人のこと言えねーだろ。おまえもボタンずれてる。靴下も履き忘れてんぞ」
「……バカ」
「うるっせーよ! クソ!!」
「ジャン! 後は俺がやろうか。おまえも遅刻しそうだろう」
「サンキュ、ベルナルド。でも、大丈夫だぜ。もう飯食ったし」
「優しいお兄ちゃんで良かったなー、ジュリオ、イヴァン」

ポンポンと飛び交う会話。
めまぐるしく過ぎていく時間。
毎日ルキーノ、ジャン、イヴァンとジュリオは、幼稚園の迎えのバスが来る時刻に合わせて家を出る。
既に用意を済ませたルキーノが、服を着せてもらったジュリオの髪を整え、身嗜みを確認した。続いて、同じく服を着せてもらったイヴァンと、2人の着替えを終えたジャンにもそれを繰り返す。
ベルナルドは用意した4人の弁当をそれぞれの鞄に入れる。
今日も手作りだ。

「イヴァンとジャンはもうちょっと髪型に気を使え。ただでさえ乱れやすい髪してんだからな」
「よけーなおせわだ」
「なんだと? ガキのくせに生意気な……」
「っ! いてぇ!」
「何遊んでんだ。もう時間だぜ」

ジャンは自分の手を掴んで離さないジュリオと、ルキーノから軽い拳骨をくらって涙目のイヴァンの手を引いて、玄関へと向かった。
その後ろからルキーノ、見送りのためにベルナルドも続く。

「じゃあ、気をつけてな」
「ああ。今日こそ早く帰る」
「行ってきまーす」
「行って、きます」
「……行ってきます」

元気に挨拶を交わして、いざ外へ……と思ったら。

「ああ、忘れてた」

ルキーノがニッコリ笑って、くるりと振り返る。
察したジャンが咄嗟に弟2人の手を振り払い、頭を抱き寄せて、ズボンに顔を押しつけた、刹那。

ルキーノとベルナルドの唇が触れ合った。
濃厚ではないけれど、長い口付け。最後にわざとリップ音をたてて、ルキーノの顔が離れていく。

「行ってくるぜ、マイハニー。浮気すんなよ」
「はは、それは俺の台詞だよ、ダーリン」

抱き合って、甘い言葉と笑顔を交わしあう。照れたように笑うベルナルドの頬はうっすら赤い。
悲しいことに、弟2人を優先したジャンの目を塞いでくれる人は誰もいなかった。

「よし、じゃあ行くぞ。って、何してんだ、おまえら」
「それは俺の台詞だろ……」
「なんだぁ? 俺とベルナルドの仲に嫉妬したか?」
「はなせ! はなせ、クソ!」
「ジャンさん……じかん、が」
「おっとぉ、そうだった! じゃ、行って来るな、ベルナルド」
「ああ、行ってらっしゃい」
「待て、ジャン! 俺も行く!」

ばたばたと駆け足の音が遠ざかっていく。
玄関から出て門まで見送ったベルナルドは、その賑やかな背中を見て楽しそうに笑った。

今日も空は鮮やかな青色で、太陽が4人を明るく照らし出していた。



END
09/09/03


題:悠久の宴

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