novel 2

□間違い続きで起きた事故
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獣みたいなキスだった。

「ふ、……」
「……んん、っ」

縦横無尽に、暴れるように動き回る。歯列も頬の裏も舐め尽くして、舌を絡めて吸われる。
奴の舌がやけに熱くて火傷しそうだ。
そんなことを、小さく思った。

鼻につくのは、強いアルコールの匂い。
脳に回ってクラクラする。
肩に回された腕からも、背広を通り抜けて熱が伝わる。

(なんでこんなことになってるんだ……?)

噛み付くように唇がぶつかって、舌が入り込んできた瞬間、俺の酔いは吹き飛んでいた。
だが、回転の遅い頭は、目の前の奴を突き飛ばすという普段なら当たり前の選択肢を弾き出すことなく、これまでの成り行きを辿る。


今日は確か幹部5人で飲み会だったはずだ。
なのにどうしてこんな……ああ、そうか。
確か急にジャンとベルナルドが来ないことになって、3人で酒を飲む内にイヴァンといつものように言い合いになったんだ。
止めてくれる奴がいないから、どんどんエスカレートして、どっちが先に潰れるか飲み比べになって……ジュリオは、ジャンがいないから先に帰ったんだな。
それで、どっちがキスが上手いかって話になったんだったか。

くだらない。
嫌な酔い方をしたもんだ。
まさかこいつと同レベルに落ちて、バカなことした挙句、キスまでしちまうとは思わなかった。



「っ!」

ビリッと痛みが走って我に返り、俺はイヴァンを無理矢理引き剥がす。

こいつ、下唇噛みやがった!

「ファック! なにすんだよ……!」
「それはこっちの台詞だ。ヴァッファンクーロ!」

まだ酔いが覚めていないらしい。
イヴァンは軽く呂律が回っていなくて、瞳はアルコールで濁り、とろりと濡れている。
こんな目で睨まれて、男が引くわけがない。むしろ煽るだけだってこと、伊達に女を抱いてないんだ。お前だって知ってるだろう、イヴァン。
頬も目許も赤く、唾液まみれの唇が扇情的になまめかしく光っていた。

「………」

ゴクリと唾を飲み込んだ音がした。
罵倒の言葉は喉で止まり、代わりに出てきたのは別の言葉。

「……下手くそ」
「てめえ――!」
「もっと上手いキスを教えてやるよ」

自分が突き放した体を、今度は強引に抱き寄せる。
女にするより乱暴に口付け、すぐに舌を差し入れた。

「ルキー……ノ。ふ、うん」

思った通り、イヴァンの口の中は奴の舌以上に熱かった。
愛撫していく内に暴れる力が弱くなる。
胸を叩いていた拳が、縋るようにシャツを掴む。
その全てに興奮する。

「は……イヴァン」

感じすぎているのか。酸欠からか。澄んだ水色の瞳から、涙がポロリと零れていく。
それを見て、気が付いたら俺は奴の同色の髪を優しく掻き混ぜていた。


これは全部アルコールのせいだ。
この衝動も沸き起こる感情も、全て。


そう決めた。
そうして小さく、イヴァンの記憶がなくなることを祈った。
それが今夜の、最後のまともな思考だった。



END
10/03/11

間違い続きで起きた事故
(だから、この気持ちも間違いだ)


アンケート結果のコメントリク「イヴァルキ」です。
(イヴァルキというより、ルキイヴァルキになってしまいました。すみません)
ありがとうございました!

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