novel 2

□楽しい正月の過ごし方−親子編−
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「明けましておめでとう、諸君」
『明けましておめでとう!』
「優しい保護者からお前らにプレゼントだ」
「ワォワォワォ! サンキュー、ルキーノ、ベルナルド!!」

元旦の朝。
ズイッと差し出された3つのポチ袋を見て、歓声を上げたのはジャンだった。両側にいるイヴァンとジュリオも顔を輝かせてその袋を凝視する。
その様子にルキーノは満足そうに唇を吊り上げる。

「礼を言うのはまだ早いぞ、ジャン」
「へ?」

同じように膨らんだポチ袋。
だが、よく考えるとおかしい。年が離れているジャンとイヴァン達が同じ膨らみであるわけがない。

「ただやるだけじゃつまらないからな。この内2つはハズレだ」
「はあ!?」
「え……!」
「どういうことだよ!?」
「簡単な運試しだよ。この中から当たりを引けばいいんだ。ただし、触って確認するのはなしだぞ」
「………」

笑顔を消して、3人で3つのポチ袋を凝視する。袋の柄も膨らみも同じ。見分けは全くつかない。
ベルナルドの言うとおり、完全に運試しのようだ。
向かいにいるルキーノ達はニヤニヤと楽しそうに3人の様子を見守っている。こういう時の彼らは本当に意地が悪い。

「引くしかねぇ……みたいだな」
「じゃあ、オレはこれだ!!」

最初に動いたのはイヴァンだった。バッと1番右の袋をひったくる。

「ジュリオは?」
「ジャンさんから、どうぞ」
「いいのか?」
「はい」
「じゃあ、遠慮なく」

(―――勝負!)

考えも何もない。ただの勘。
けれども、今まで運試しで外したことはない。
自分の勘を信じてジャンは左を取り、ジュリオは続けて残りを取った。

「あー! ハズレかよ! シット!」

イヴァンの声を聞きながら、向かい合って袋を開ける。
中に入っていたのは―――。

「……ティーパック?」

(まさか外した……? この俺が……!?)

「ジャン、さん……?」

心配そうに名前を呼ばれ、ジャンは恐る恐る中身を取り出した。
お札が数枚軽く畳まれた程度に膨らんだ袋から、茶葉の匂いがほのかに香る。本当にただのティーパックだ。
ルキーノもベルナルドもコーヒー派だから、こんな物は普段家に置いていない。このためにわざわざ用意したのだろう。
けれど、どこにでも売っている安物の袋には1つだけ他と違うところがあった。

「ジャンさん……!」

向かいのジュリオが嬉しそうに笑う。
ひっくり返して、ようやく気付いた。
「あたり」
そう書かれたシールがペタリと袋に貼られていた。

「おめでとう」
「おめでとう、ジャン。やっぱりお前だったか」

怒るイヴァンを宥めながら、ジャン達の様子を眺めていたルキーノとベルナルドがニッコリ笑って祝いの言葉をかける。

「紛らわしーんだよ! ちょっと焦ったじゃねーか!」

言いながらもジャンは笑っていた。横のジュリオも自分のことのように喜んでいる。彼は自分よりジャンが当たった方が嬉しいのだろう。
イヴァンだけが、「ずりーぞ、ジャン!」と怒りたっぷりに怒鳴っていた。

「はい。これが本当のお年玉だ」
「サンキュ」

ベルナルドから差し出されたお年玉を受け取る。
開けて思わず噴き出した。
予想通り準備が良い。大人2人は言葉通り、最初からジャンが当てると分かっていたらしい。彼の性格も熟知している。

「ほら、ジュリオ、イヴァン」

笑い掛けて、名前を呼んだ。
袋の中には1万円札と5百円玉が2枚。きちんと3人分入っていた。



END
10/02/25(10/01/19)
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