novel 2

□楽しい正月の過ごし方−兄弟編−
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年も明けた元旦の昼。
ジャンを中心にリビングのテーブルは賑わっていた。
テーブルの面を埋め尽くしているのは、色とりどりで賑やかな広告の数々。どれも「初売り」の文字が踊っている。

「俺はどこを狙うかなー」

ジャンは楽しそうにゲームや靴の広告を物色していた。
これは今から行われる大切な作戦の下準備だ。

「ジャンさん」
「なんだ、ジュリオ?」
「俺はこれが良い、です」
「おー、ここジュリオが好きな店じゃん! オッケー。ルートにいれようぜ」
「はいっ……!」
「イヴァンは……さっきから真剣に見てんな、そこ。……あーお前が好きそうな感じだ」
「なっ、なんだよ! 文句あっか!!」
「別に何も言ってないって。なんでも疑ってかかるのはよくないぜー?」

イヴァンをからかって遊ぶジャンを見ながら、ルキーノは熱いコーヒーを啜る。

「よくやるよなあ」

向かいで同じようにコーヒーを飲みながら、適当に広告を眺めているベルナルドに話し掛けた。少し離れた所で盛り上がっている弟3人には聞えないよう潜めた声だ。
それにベルナルドは顔を上げてふわりと笑う。

「お前も昔はあっち側にいたんだぞ?」
「学生の時は金がなかったからな。だが、今は社会人だ。わざわざ初売りなんて行かなくてもいいと思うが……」
「質が変わらないなら安くで手に入れるのも良いと思うよ」

そう言われてしまえば、何度か金の使い方をベルナルドから注意されたことのあるルキーノは口を噤むしかない。先程よりも苦く感じるコーヒーを口に含む。

「それに、ジャンは何か欲しいというより初売り自体を楽しんでいるからね」

向こうで笑い声が弾ける。まるで子どもだ。
愛しそうに目を細めているベルナルドの視線の先には、楽しそうに相談する弟達の姿がある。

「そうだな」

つられて、ルキーノは苦笑した。

ジャンが初売りにハマったのは高校の頃。
初めは普段買えない高価な物を得るために参戦したのだが、今ではすっかり新年早々の運試しになっている。
狙った物を手に入れられない人も多い中、ジャンはラッキードッグの名のままに、兄弟が欲しい物まで全て手に入れ損ねたことはなかった。

「俺も混ざるか」

大晦日の夜ならともかく、元旦の昼に見たいテレビなど特にない。
有意義に楽しく過ごすには、兄弟と盛り上がるのが1番だ。

「ジャン、運転手はまかせてくれ」
「ありがとう、ダーリン。お返しは何がいいかしら?」
「お返しなんて……君が喜んでくれるのが1番さ、ハニー」
「そのやり取り止めろ。キモい」
「あらぁ、イヴァンちゃんたら、ヤキモチィ?」
「キモいっつってんだろ! うぜぇ!!」
「うるさいぞ、イヴァン。ジャンもからかうのはそれくらいにしとけ」
「ああ、悪い。反応が良いもんだから、ついな」
「気持ちは分かるがな」
「てめぇらなあ!」
「イヴァン」
「なんだよ!?」
「うるさい」
「ファック! ざっけんな、ジュリオ!」
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「手伝ってくれんのけ?」
「ああ。家に1人でいるのも暇だからな」
「サンキュー! 2人にはとっておきのコーヒー豆ゲットしてくるからな!」
「それは嬉しいな」
「楽しみにしてるぞ」
「後は俺とジュリオとイヴァンの服と、靴とゲームだな。よし、買う物は決まった。作戦会議始めるぞー。ジュリオー」
「はい、ジャンさん」
「ほらイヴァン、いつまで怒ってんだ。早くこっち来いって」
「なんだその扱いの違いはよぉ! クソ! お前らいい加減にしろよ!!」

ジュリオと乱闘に近い言い合いをしていたイヴァンが、怒鳴りながらも席に着く。
これで全員が揃った。
中心に座ったジャンは一同をぐるりと見回して笑った。

「よし。じゃあ、始めるぜ」

楽しい作戦会議の始まりだ。



END
10/02/25(10/01/20)

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