novel 2

□ふと愛しくなる瞬間はおまえが
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※ジュリオが無理矢理してるので、痛い描写ばかりです。
苦手な方はご遠慮下さい。









得体が知れない。

あいつを一言で表すとこうなる。
イメージは赤。
生暖かい鮮血だ。所々ピンクも混じる。腸や肉の―――。
いつだって思い出すだけで吐気がした。
体中に残る痣。拘束された手首の跡。喘ぎ過ぎて喉は痛み、ぶち込まれた腹の調子はすこぶる悪い。
不調は全て奴が原因だった。









「は、あ……、っ」

「ファッ、ク……、止め……ジュリオっ!」

いくら言ったって、今の奴には聞こえない。
分かってんのに、口は勝手に動いていた。
目の前には何も映していない冷たい瞳があって、首にはすぐそばで絶命している男達の血で濡れたナイフが当たっている。
逃げようとしたり、逆らえば、それで終わりだ。

殺される。

間違いなく、何の躊躇いもなく、こいつは俺の首を裂くだろう。そんな狂気を感じていた。

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
慣らしもせずにぶち込まれて快楽なんて感じるはずがない。
確実に裂けている。背後から聞えてくるグチュグチュと濡れた音が不快だ。

「い、てぇ……!!」

頬を生暖かな液体が伝っていく。
泣いてんのか、俺。
そう気付いたら、悔しさと情けなさと羞恥心で頭が煮えたぎっておかしくなった。
逃げようと無意識に身を捩った拍子に、プツッと首から嫌な音。
刃が皮膚に当たって切れた。
幸い浅く、痛みも後ろの痛みに紛れて感じなかった。きっと僅かに血が出る程度だ。
けど、後少し深く切れたら……。
ゾクリと肌が泡立つ。身が竦んで動きが止まった。
その瞬間、掴まれた腰が引き寄せられ、一気に奥まで打ち込まれる。

「ぐ、あぁっ!」

あまりの衝撃に息がつまる。
目が思い切り見開かれて、視界が白く明滅した。
痛い。気持ち悪い。吐気がする。辛い。苦しい。なんで。

なんで俺がこんな目にあわなきゃなんねぇんだよ、クソ!
いつもいつも…!

そうだ。ムカつくのはこれが初めてじゃないってことだ。
こいつは盛ったら何言っても止まらねえ。2、3回、俺の中で吐き出すのを待つしかない。
自分のみっともなさをこれでもかってくらい感じさせられて、プライドなんてもんは踏み潰されて踏み躙られて、せめてこいつに変な声なんか聞かせねえように必死に耐えるしか、今の俺に出来ることはなかった。
涙は生理現象だ。止めたくても、止められねえ……。


こんなはずじゃなかった。


俺はただGDとの抗争で無茶してジュリオが捕まったら、俺達まで面倒なことになるから殺人現場まで迎えに行っただけだ。なのに、そこで狂った奴の姿を見た。
内蔵までぐちゃぐちゃに掻き回した死体に興奮して、白濁ぶちまけるなんて、有り得ねえ……。
気持ち悪い。
そう思った。前なら連れ帰らずに帰ってたかもしれない。
でも、ジャンと4人で脱獄して、今まで知らなかった幹部の一面を知って、ジャンと色々話すようになって……なんでか、見捨てられねえと思った、から。
だから、とにかく連れ帰ろうと苛立ち混じりに名前を呼んだ。それに反応してゆっくりジュリオが振り向いた瞬間、気付けば俺は押し倒されていた。
体格差に、実力差。
マッドドッグ相手だ。敵わないのは分かってた。
けど、驚いて暴れて抵抗して、何カ所か切られてボロボロになって好き勝手されて、俺は犯された。
いつ思い出したってむかつくぜ、ファック!
こんなのもう絶対ごめんだ!ジュリオなんか知るか!
そう思ったのに、俺はあれ以来いつも殺人現場に迎えに行く羽目になっちまってる。

そうしないと、ジュリオが帰ってこないからだ。

今までこんな事はなかったのに、俺が1度迎えに行って以来ずっとだ!
部下じゃあいつは連れて帰れねー。ベルナルドはホテルにこもってるし、ルキーノは店や教会巡りが主だから、血のにおいはつけられない。
ついこの間、GDとは話し合いで決着をつけたばかりだが、街にはまだGDの下っ端がうろついて、緊迫した状況が続いてる。放っておくことも出来ない。俺が迎えに行くのを拒否したら−−−ジャンが行くことになる。

ジャンは……良い奴だ。バカでアホで生意気だけどな!
あいつは、俺達のボスになる男だ。こんなことさせられねえ。



「あっ、ひっ、ぅ……!」

奥を突かれる度に勝手に声が漏れる。
ガクガク身体が揺さぶられて、背中が擦られて熱を持つ。
ごく僅かにジワリジワリと下半身に熱が広がっていた。シット!これが邪魔だ。まるで俺が感じちまってるみたいじゃねえか!
ジュリオの艶めいた息遣いが耳に滑り込んでくる。熱い吐息が剥き出しの腹に落ちた。気持ちいいらしい。
クソ、1人だけ勝手に楽しみやがって!

こんだけ酷い目にあわされて、殺してやりたいと何度も思った。
……なのに、憎みきれないのはなんでだ。殺せないのはなんでた。ジャンのためとはいえ、迎えに来るのはなんでた。
ジャンを見た時だけ、嬉しそうに笑う。あの笑顔が脳裏にちらつく。他人を信じない俺には絶対浮かべられない笑顔。向けられたこともない。

もしかしたら……ジュリオはジャンにはこんな事はしないのかもしれない。
あの子どもみたいな笑顔で、優しく柔らかく怯えるように触れるのかも知れなかった。

「な、らっ、俺が、あっ! してるっ、ことは、全部……う、無駄骨、だ……!」

息も絶え絶えな中、ぐしゃりと顔が歪んで、乾いた笑いが漏れた。クソつまんねーことに、泣きそうな声が出た。ずっと堪えてたのに。
こいつにとって俺は、ただ性欲を吐き出す器でしかねえんだ。
新たに溢れた涙が、頬を伝う。
それを、広い手が拭った。

「……イヴァン?」
「……あ?」

名前を呼ばれて、反応が遅れた。
腰の動きが止まってる。なんだこいつ、襲ってるのが俺だって自覚あったのか?
てっきり誰でもいいんだと思ってたぜ。

「なんだよ」

痛む喉からは掠れた声しか出なくて、俺はきつく睨み付けた。
ジュリオの顔に影がかかる。眉を下げて、申し訳なさそうな顔。
まるでジャンに対する時のように。

「すまない」

降ってきた言葉に目を見開いた。口元が震えた。
勿論、された事はこんな言葉で許せるようなもんじゃねえが……
幼い子どもにするように、汗や塵まみれになった頭を撫でられる。こわごわと怯えながら、優しく、柔らかく。何度も。
ガキ扱いすんな。そう思ったのに、何も言えず、振り払う力もなかった。

「ジュ、リオ?」
「イヴァン……」

泣きそうな顔が近づいて、唇に柔らかい感触。
キス、された。
そう気付いたのは、やっぱり何秒も遅れてからだった。

「は……」

初めて、された。
ファーストキスってわけじゃねえ。ジュリオに初めてされたって意味だ。まさか泣きそうな顔で、こんな子どもみたいなもんをされるとは思ってなかった。

こんだけ酷い目にあわされて、殺してやりたいと何度も思った。
許せない。

なのに。

「はっ、さっさと動いて出しちまえ。それまでは付き合ってやる」

そんなんで半ば反射的に無理して笑って、そう答えた俺は、実は大馬鹿野郎なのかもしれねえな。









10/02/23
題:確かに恋だった


アンケート結果のコメントリク「ジュリイヴァ」です。
ありがとうございました!

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