ポケモン文
□手の暖かさ
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「手、繋ごう?」
そう言って右手を差し出してくるハルカの表情には、恥じらいというものはなかった。
「……ハ…ルカ?」
あまりに唐突なことで何も反応できなかった俺は、ただハルカと右手を見比べて情けない声を出すだけだった。
だが目の前の彼女が少し自嘲した笑みと共に右手を引っ込めようとしたので、慌てて左手で掴んだ。
自分の反射神経に感謝しつつ、少し恥じる。
けれどもハルカの表情が自嘲から嬉しそうな笑みに変わったとき、やっぱり俺は反射神経に感謝した。
(…そういや、こんなことやった覚えがないもんなぁ)
ちゃんと握り合っている俺とハルカの手を見つつ、俺はそっと考えた。
こういう関係になってから、デートはしたものの手を繋ぐという行為はしてなかったことを思い出す。まあハルカはよく俺の腕に抱き着いて歩いていたが。……まさか俺はそれに満足して、初歩的段階の『手を繋ぐ』を無視していたのか!?
ああ、きっとそうだ。十中八九そうだ。だから寂しさを感じたハルカが自ら手を差し出してきたんだ。
「ごめん、ハルカ……」
「えっ……何?話の脈絡がないから色んな意味で恐いんだけど……」
「マジごめん」
「………うん、いいよ」
俺が謝る理由なんて知る由もないハルカは、理由解明よりもとりあえず許すことにしたらしい。
一通り謝って許しを貰った俺は、彼女の手を引っ張るような形で歩き始めた。もちろん歩幅、速さは彼女に合わせてある。
「ねぇハルカ、どこ行こうか」
「ふふっ、ユウキ君と一緒ならどこでもいいよ」
横に並んで笑うハルカの手の平の暖かさは、何よりも暖かかった。