ポケモン文
□愛故
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彼に刻まれた闇は、とても深い。何もかもを飲み込んでしまいそうなほど暗くて深いのに、実際は何も飲み込まず拒否をする。
そんなややこしい闇を抱えた彼は、ベッドの上でシーツに包まってまったく動かなかった。
目線は合っているはずなのに、目は見えない。シーツの影が正直邪魔だ。
(いつまでこの状態なんだろ……)
お互い見つめ合ったまま、いや、そう思ってるのは俺だけかもしれない。ともかくそんな状態がかれこれ3時間は続いていた。
俺のどこにこんな忍耐力があったのだろうか、と半ば現実逃避をした頭が考えている。あ、今度レッド先輩に自慢しよう。この状態から無事に帰還できたらね。
ああもう、動きたい。
外出たい。今日いい天気だよ。洗濯物干さなくていいの?そりゃ家事はなにもかも任せっぱなしだけど、今日は手伝うよ。
だから、この見つめ合い、止めよう!
ねえ、シルバー。
「…………た」
(お、喋った)
「もう、疲れた」
忘れてたよシルバー!
お前の闇は深く暗いものだったってことを!!
「 し に た い 」
途切れ途切れに伝えられた言葉に、俺はどうすることもできなかった。
ただ、ね。
ただこれが「殺して」だったら、俺は、俺ね。
きっと何も躊躇せずに殺してあげてたよ。
(惜しいねシルバー)
でも実際お前は死ぬのを恐れてるし、俺も殺すのは怖い。
だからそのか細くて低い声が発する「殺して」という言葉は、一生俺に、お前自身にも届くことはないのだろう。
(愛故にお前を殺すことは厭わないけど、愛故にお前を殺すことを恐れてるんだ。嗚呼、嗚呼………)
思わず握った手の温もりを、俺が消さないように小さく祈って、俺はいつも通りの笑みを浮かべたのだった。