ポケモン文
□世界最後の日
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テレビはずっとニュースばっかりやっている。いつものようなコメディーやアニメはやってない。
最後くらい、あのアニメがみたかったなぁなんて頭の片隅で思う。そんな冷静な自分に笑いがでた。
私の世界の終わりは、いたってシンプルだった。
隕石や火山大噴火とかそんなものではなく、ただこの国に核が飛ばされたらしい。ニュースによると、後30分でこの国を破壊して燃やしつくすんだって。全く迷惑ね。
最初は逃げようかと思ったけど、大渋滞してる上にこの街を出てもどこも行く場所はないのだからすぐに諦めた。だからこうしてソファーに座って同じことを繰り返すテレビを眺めているのだ。
「……つまらない」
膝を強く抱える。あと20分と迫ったらテレビも砂嵐と化してしまった。あのアナウンサーはどんな思いでこんなぎりぎりの時間まで伝えていたのだろうか。
そんな他人の事を考えていたら、ふと横にユウキ君が座った。今の今まで部屋に篭っていた人間がやっとのことお出ましよ。
「……ハルカ」
「ユウキ君、決心した?」
「今更だね」
からかって聞くと笑いつつ言い返される。そんな当たり前なことが、嬉しい。これが最期だと考えると悲しくもなるが、でも嬉しかった。
「外、静かね」
「うん」
「私ね、もっと暴動とか起こるんじゃないかって思ってたんだけど」
「最期だから、そんな馬鹿は誰もしないだろ」
「そっか」
ぐい、とユウキ君に引き寄せられる。相変わらず優しい匂いがする服に顔を埋める。
嗚呼、これで終わり。
何も逃がさないようにぎゅっと抱き着く。ユウキ君も頭を撫でてくれて、強く抱きしめてくれた。
「これが、夢ならいいのに」
「なんども、なんどもそう思ったの」
「そしたら、またユウキ君や皆がいる世界に帰れるって、期待したのよ」
「でもユウキ君の温かさは夢じゃない。私達は死ぬんだね」
私の言葉を聞きつつ、さらにユウキ君が強く抱きしめる。息苦しいとは思わない、逃げ出そうとも思わない。今この時が私達二人の世界なんだ、と寧ろ笑えてきた。
「ねえ、ユウキ君。このまま二人で地獄に行けたらいいね」
「天国じゃないんだ」
「ガラじゃないでしょ」
ふふ、と笑う。確かに、とユウキ君も口角を上げた。
幸せな時も、あと5分といったところだろう。
「ヒカリ達も来るかな?」
「だろうね。善良な俺が地獄行きならヒカリ達も当たり前に地獄だろ」
「善良という意味を辞書で調べないと……。あ、コウキ君は付き添いっぽいけどね」
とここで携帯にメールが届いた。とんだ物好きね、とメールを開くと、差出人はヒカリ。
内容はたった一言「地獄でまた会おうね」だった。添付ファイルにはふざけた笑いを浮かべているヒカリとコウキ君の写メ。
「ははっ、ばっかでー」
「まぁいいじゃない。約束はこじつけたしね。あ、ゴールド君達や先輩達もくるかなぁ?」
「そこは確実に来るだろ」
「ふふ、ならいいわ」
もう黙ってユウキ君の匂いを胸一杯に吸い込む。ユウキ君も何も言わなかった。静かな空間を二人で味わっていた。
瞬間、なにもかもを消す光が降り注いだが、何も感じなかった。
(自分にしては素晴らしい死に方だったわ、ユウキ君!)