ポケモン文

□ほんとはね、
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海に来ました。わざわざ遠出をしてミナモシティまで。(ハルカ達には言ってません。だって二人きりですごしたかったから)

街のちょっと外れだから人は少ないです。仲睦まじい家族とカップルが二組ずついるくらいで、後は何もいません。あ、家族やカップル達が連れているポケモンはいました。1番印象的だったのは四歳くらいの小さな女の子とガブリアスのコンビでした。(さすがに私もコウキ君もびっくりア然)
なので負けじとフローゼルを出しましたが、何か違うと悟って張り合うことを止めました。コウキ君も苦笑しつつピッピを出してフローゼルと遊ばせます。


「ドダイトスは出さないの?泳がないとしても遊ぶには遊ぶでしょ?」
「昼寝しそうだけどね」
「それもそうよね。こっちもゴウサガルが昼寝しそうだし」


ぽん、と残り四体を繰り出す。可哀相だとは思ったがパルキアは他人の目もあるということで出せませんでした。ごめん、また来た時に出すね。
コウキ君もディアルガ以外のポケモンを出しました。ヤミカラスは日差しが辛いのか直ぐさまドダイトスの影に入ってしまいましたが。
他のポケモンも皆思い思いに行動しています。その余りに平和な光景に、私は笑みをもらしつつコウキ君に寄り掛かりました。脳裏にはこれまでしてきたギンガ団との危険なバトルがフラッシュバックしてます。


「平和よね」
「うん、そうだね」
「今までのことが夢みたい。ギンガ団とか」
「今となったら本当にあんなバトルしたのかどうかも夢心地だもんね、わかるよ」
「ふふ、そうね」


コウキ君がそっと肩を引き寄せてくれました。その力強さに、つい泣いてしまいました。


「ヒカリは優しいから」
「…」
「いくらポケモンを守るためだといっても、あんな戦いは望んでなかったよね」
「……コウキ君」
「ごめん、ヒカリ……。力になれなくて……一人で戦わせてしまって……」


謝らないでコウキ君。

私はあなたに謝られることをした人間ではないの。あなたが思ってるほどできた人間ではないの。だから謝るのは私のほうよ、コウキ君。


皆のポケモンを守るために戦った訳じゃないの、自分を、自分のポケモンを守るために戦っただけなの。
あのもう一つの世界でも、近くにはシロナさんがいたし、私自身はというと自分を守るために戦っただけにすぎないのよ、コウキ君。

ほんとは、弱くて自分の周りを守るのが精一杯の、ちっぽけな人間なのよ。


(……でも、聡いコウキ君はこんな私にとっくに気付いてるのよね)


優しいのは、貴方。
ほら、今もこうして抱き寄せてくれてる。


(私は、その優しさに溺れて息もできないのに)


ゆっくりと目を、閉じました。聞こえるのは潮の音とポケモンの声と、コウキ君の呼吸の音だけです。



「だいすき、コウキ君」



囁いた言葉に返事は来ませんが、私を抱いている腕に力が篭りました。そこが彼らしくて無意識に笑いが零れました。


(ほんとに、優しいね)


だから、愛したのかもしれない、と気付いた私は控えめな動作でコウキ君の体に腕を回しました。



なんて、ささやかな安息。





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