ポケモン文

□嗚呼神様!!
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目の前にいる青年はいつもの無表情を見事に崩し去って、ぶざまに泣き崩れていた。不思議と醜いとは思わなかった。面倒臭いとも思わなかった。

ただ、この青年が引っ切りなしに繰り返している言葉の不快さがこれらを上回っただけだ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


こう反復されると何がなんだかわからなくなる。何に謝ってるのか推測できすぎてわからなくなる。
父親に謝ってるのか、姉に謝ってるのか、傷つけたポケモンに謝ってるのか、トレーナーに謝ってるのか。はたまた、生まれたことを謝ってるのか。


「ねぇ、シルバー」


声にも反応は返ってこない。無意味に謝罪の言葉が言われるだけ。嗚呼、狂ってしまいそうだよシルバー。


「何に泣いてるのさ」


やっぱり返ってくるのは謝罪。俺しかいない空間で謝らないでよ。その無数の言葉に頭が痛いんだ。
泣く君は好きだけど、口は塞いでいてよ、ねぇ。


「シルバー」


真っ正面から抱きしめた。
庇護するように頭から、包み込んで、強く強く。窒息しそうなくらい抱きしめてみた。
するとシルバーは躊躇いなく俺に縋り付いてきて、口を閉じたまま静かに泣いた。―――ここで初めて同情してしまった。


「可哀相なシルバー」


緋色の髪に頬を寄せる。


「父親はあんなだし、姉とは離れ離れだし、多くのポケモンやトレーナーを傷つけたし、存在意義さえわからないなんて」


青年はビクリともしない。
(まるで俺の言葉なんて聞こえてないみたいだ)

ただ、目が。
強い目が俺を捕らえて離さないから。不覚にも満足して口角が上がる。


「でもな、シルバー。気にするな大丈夫。お前はお前で父親は関係ない。それに、俺がお前の存在証明のために生きるからさ」


服が強く掴まれる。少し揺らいだ目と視線が合う。見上げてくるそれは、少ししたら伏せられた。


きっと今も泣いているんだろう、彼がとても小さく弱く見えた。


俺が感じたのは、同情でも失望でもなく、ささやかな憤りだった。



(嗚呼神様!何故こんなに弱いシルバーを何故こんな立場にしたんですか!俺がいなきゃもうこいつ死んでますよ!)


空を睨むが、あるのは白い天井だけだった。






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