無双小説+α
□また来世で!
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「死ぬのか、政宗」
急に投げ掛けられた言葉に、政宗は閉じていた目をぱっちりと開けた。
体は地面に横たえたままであり、政宗は起き上がる気もないようだ。
「別に、死ぬ気はない」
「なら何故本陣へ帰ってこないのだ?おかげで私がお前の捜索を命じられてしまったではないか」
「光栄に思え、兼続」
「はは、ありえんな」
そこら辺に死体が転がる戦場では不似合いな清々しい笑顔を兼続は浮かべた。そして何を思ったか剣を地面に突き立て、兜を脱いで政宗の隣に正座をしたのだ。
さすがにこの行動を不審に思った政宗は眉を潜め上体を小さく起こした。
「頭でも沸いたか、兼続」
「失礼な」
兼続はまたもや戦場に不似合いな笑いを浮かべる。その笑顔を眩しそうに見つめていた政宗は、ゆっくりと腕の力だけで兼続の方へ近づいて行った。
無論、兼続は気づいていた。ただ何も言わなかったし拒みもしなかった。笑顔のまま政宗を見つめていただけだ。
「兼続、」
少し経った後、政宗の頭は兼続の膝の上にあった。
そのことを兼続は嫌がってはおらず、逆に髪の毛を梳いてやっている。
今の二人には、普段の険悪な雰囲気は全くなかった。(かといって恋人同士みたいな甘い雰囲気でもなかったが)
何にも例えがたい、何とも言えない雰囲気だった。
「兼続…」
「どうした、政宗」
「…今日はいい天気だな」
「ああ、そうだな」
政宗の言葉に兼続は静かに答えていく。
政宗は兼続ではなくその向こうにある青空を見つめ、兼続は笑んだまま目を閉じて政宗の髪を梳いているだけだった。
「……兼続」
「うん?」
「……幸村を頼むぞ」
「大丈夫だ。幸村は強い」
「……そうか。それを聞いて安心したぞ」
ゆっくりと政宗が目を閉じる。非常に眠たそうだ。
そんな政宗に対し、兼続は笑みを消して目を開く。悲しみを湛えた目だった。
だが兼続は何も言わず政宗の言葉を待った。
「……わしは、お前たちのことはそんなに嫌いではなかったぞ」
「ああ、私もだ」
「できれば平和な世で会いたかったがな」
「ああ、私もだ」
「でもまあ、これでもいい…な……」
「…………」
「来世を期待しておるぞ、兼続。………おやすみ」
それだけ言って、政宗は意識を無くした。少し重くなった政宗を、血に濡れている彼の腹部を見て兼続は目を閉じる。
「また、来世でな」
気休めにもならない口約束を口にして、兼続は政宗を抱え上げる。
ぐったりとした体は重く、兼続はよろめくが気にせず本陣へと踵を返した。
とりあえず来世というものがあればいい、という考えが兼続の思考の全てだった。