無双小説+α

□愛おしい
1ページ/1ページ



花を手折ろうか。
そしてお前に捧げようか。



「受け取れ、ギン千代」

「なんだ、花ではないか。立花にそのようなものは必要ないな」

「ここは戦場ではない。それにお前にはこの花は似合う」

「たった一輪の彼岸花が、か?」



嘲笑うような笑みを浮かべたギン千代は、俺の手から真っ赤な彼岸花を抜き去った。
彼女が言うようにたった一輪しかなかったが、その毒々しいまでの赤はよく似合っている。きっとここまでこの赤が似合うのはギン千代か濃姫くらいしかいないだろう。



「やはりよく似合っている。それを頭に挿して戦場へ赴くか?」

「とんだ酔狂な行為だな。御免被る。それに私の雷ですぐに黒焦げになるのが関の山だろう」

「まあそれが正論だな」



黒焦げになった彼岸花を想像して、小さく笑う。ここまでしっかり想像できるのもなかなかないことだ。
ギン千代も簡単に想像できたのか、手元にある彼岸花を見つめながら先程とは違った柔らかな笑みを浮かべる。この光景もなかなか珍しいな。



「どうした元親、私の方をじっと見て」

「いや。ただ俺は幸せ者だと考えていただけだ。それでその花はどうするんだ?」

「相変わらずよくわからないことを考えている奴だ。でもまあこの花は、有り難くいただくことにする」

「気が向いたか」



花など決して受け取らないと思っていたが、どうやらギン千代は受け取るらしい。なんとも珍しい。
思わず多少上擦った声で聞いてしまったが、ギン千代は気にかけてないようだ。
彼女は彼岸花を手遊びつつ、微笑みを湛えたままだった。



「なに、気が向いたわけではない。私はお前がくれるものならなんでも貰うつもりだ」

「……ギン千代、」

「立花に必要がないものでも似合わないものでも、元親がくれるのならそれらは全て必要があるものになる。お前が似合うと言うのなら似合うだろう。だから、私は喜んで貰おう」

「…お前は時々恥ずかしいことを気に止めずに言うな」



聞いているこちらが恥ずかしい言葉を述べるギン千代に、俺はそう言うことしかできなかった。だから三成や政宗に「ヘタレ」と言われるのだろうか。
ギン千代はというと特に恥ずかしがることもなく、彼岸花を手遊びし続けている。まあそんなに気に入ってもらえるのなら贈ったほうとしては嬉しいものだ。



「ギン千代」

「どうした?」

「その花はいずれ枯れてしまう。今度は失くならぬものを贈ろう」

「ああ、楽しみにしている」



クスクス笑うギン千代を見てこちらも笑みを深め、そして肩を引き寄せた。
彼女の手元にある花を見つめ、俺は日が暮れかけている秋の空を見上げたのだった。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ