ペルソナ文
□特別
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「ほい完成。陽介ー、そっち持ってってくれー」
「うぉ、ケーキ!」
やけにエプロンが似合っている月森の前には、クリームで彩られたケーキがあった。
デコレーションはかなり細かいものであり、こんなケーキが一般人から作りだされたなど到底信じがたい。
一見すれば市販の、しかも結構高級な所のケーキだ。
作った張本人である月森はエプロンを脱ぎつつ冷蔵庫からジュースと、戸棚からコップを取り出してリビングに向かった。
先にケーキを持って行っていた陽介は待ち遠しそうに月森を呼ぶ。
「そんなに急かすなよ」
「無理!こんなすごいケーキが目の前にあるんだぜ!本当にスゲェよ月森!」
「はは、そんなに褒めたって何もでないぞ」
「全部本心だよ。……あ、月森。今日は何か大事な日だったか?」
陽介は首を傾げる。
今日はなんの変哲もない日曜日。誕生日でもなければ記念日でもない。
気が向いたから―――という理由も考えられたが、ここまで完成度の高いケーキを作るはずもない。
全然思い当たる節がない陽介はじっと月森の答えを待つことにした。
月森はばつが悪そうに目線を逸らしたりしていたが、しばらくして小さく呟いた。
「今日は…特別なんだ」
「特別?お互い誕生日でもないのに?」
「ああ、まぁね」
幾分か余裕を取り戻した月森は、恥ずかしそうにはにかんだ。
ますます訳がわからなくなった陽介はさらに首を傾げるだけだ。
それを見た月森は小さく笑いつつ、陽介に向かって手を差し出した。
「陽介、手、貸して」
「こう?」
「そうそう」
重ねられた手に、月森はポケットから出した指輪をはめていく。
左手の薬指にピッタリとはまったシンプルな指輪に、陽介は思わず月森を見つめてしまった。(驚き過ぎて声が出なかったようだ)
「今日は、特別」
目を閉じつつ柔らかな笑みを浮かべた月森は、ゆっくりと次の言葉を紡ぐ。
「結婚しよう、陽介」
まだ笑みを崩さない姿を綺麗と思いつつ、陽介は己が泣いていることに気付く。
震える手を口元に当てて、零れる涙を拭うこともせずに、ただ月森を見つめ続けて。
「――…おう……!」
やっと出した声が月森に届いたとき、彼は柔らかな笑みを満面の笑みに変えてそっと彼の涙を拭ってやったのだった。