ペルソナ文

□またあした
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「陽介、陽介」


ゆさゆさと月森が俺を揺する。え、何?俺、また当てられてる?

と思ったがどうも違うらしく。


「陽介、起きろ」
「………おはよ」
「ああおはよう。2時間連続で夢の世界に旅立ったからさぞ気分はいいだろ?」
「おう、とっても」


目の前で頬杖をついている月森を見ていたら、本当、眠気なんてどうでもよくなってきた。
寧ろ、冴えてきた。
そして冴えた頭で、月森がなんで俺を起こしたのかを考える。

答えはいたって明確だ。


「じゃ、帰りますか。せっかく起こしてくれた月森君のために」
「一つ間違い。起こして下さった、だろ」
「いやー、無いわー」


お決まりの軽い会話を交わしつつ、二人並んで教室を出る。(里中と天城はとっくに帰ったようだ)
途中、りせに捕まっている完二を見たがそこは助けなかった。


「俺は心の中で応援してるぞ、完二。頑張って無事に帰宅するんだ!」
「あー、目標そこか」


月森の、どこか納得した声に吹き出しつつもさっさと玄関を出る。
太陽を仰ぎ見ていると少し遅い月森がやっと俺の隣に立った。見ると、手にはミステリーフード。


「理科の実験で作ったって。陽介、食べる?」
「誰が食うかい。つーか実験で食い物もどきが出来るって、レアだろ」
「………レアだな」


月森は言葉と共にミステリーフードをしげしげと眺めていたが、飽きたらしく結構雑な手つきで鞄に突っ込む。
それが今後の探索に出現しないように祈りつつ、俺は歩き始める。

そこからの会話も、いたってどーでもいい話だ。


「お前が旅立ってる間、一時間に一回は当たった」
「よっ、当たり年」
「陽介、頭は大丈夫か。…とにかく当てないでほしかった……」
「んでも、ちゃんと答えたんだろー?」
「当たり前だ」
「いつも通りだな」
「いや、今日は全部山勘だった」
「このラッキーボーイが」


あれか、装備ペルソナの運がいいのか。……くそう、なら俺ダメじゃん。頑張れよジライヤ!と内なる自分に問い掛けたら、ばーかって返ってきた。ばかって………。
ちょっとめげて月森を見たら、楽しそうにニヤニヤしてやがる。何が楽しいのか聞いてみるとはぐらかされた。


「……気になるぜ…」
「じゃ思考が俺でいっぱいっていうことだな。そうか、なら俺のことを考えつつ今日を過ごしてくれ」
「ぜってーヤダ!」


笑いながら否定するけど、実際月森の言う通りだ。このままだと明日まで頭が月森のことでいっぱいいっぱいのような気がする。
夜中にどうでもいい理由で月森に電話してしまいそうなので、一応確認を取っておく。


「夜中に電話したらごめんな相棒」
「どんとこい」
「はは!男らしいぜお前!…っと、じゃ俺はここで」
「そうか」


気付いたらいつもの分かれ道に来ていたので、名残惜しいけど月森と別れることにする。
そしたら月森もいつものように淡々と頷いて、進路方向を変えた俺に手なんか振ってくれた。
(これが普通なんだろうが、これがまた馬鹿みたいに恥ずかしい)


「また、明日」


あ、もうダメだ。
その言葉にやられました。
そんな普通のことだけど優しいこと言うなよな。
俺は聞き慣れてないんだよ、恥ずかしいよお前。


「…おう!」


だから、またな!って返せなかった。いつもなら言えるのに、何か恥ずかしかったからだ。



でも、明日あいつに会うのが凄く楽しみになったことに間違いはなかった。









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