ペルソナ文

□人口呼吸
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「っ…!」


しまった、と思った時にはもう遅かった。目の前には敵が三体もいてそいつらに僕らは完璧に先制されたのだ。
しかも見た限り強敵らしい。ナビの風花が慌てているのをどこか遠い気持ちで聞いていた。


『耐えて下さいっ!』


風花が皆に向かって叫ぶ。
そのいつにも増して緊迫した声に真田先輩は表情を険しくし、天田は体をびくつかせ、順平は「疾風じゃありませんように!」なんてことを小声で繰り返し始めた。
それなら僕だって闇はやめてほしいな。そりゃ闇からの大生還や闇耐性とか持ってるけどさ。やっぱ嫌じゃん。あーもう、マジでムドオンとかやめてよ。

とか、順平みたいなことをぐるぐると考えていると敵の攻撃で足元から冷気を感じた。しかもそれは皆共通らしい。


「マハブフダインか!」
「っく!!」


弱点を突かれた真田先輩がダウンする。聡明な敵は攻撃対象を真田先輩に定めたらしく、ブフダインを計四回も放った。
もちろんダイン系の技(しかも弱点属性)に五回も耐えれる真田先輩じゃないため、瀕死状態になった先輩は綺麗な動作で倒れてしまった。


『真田先輩が戦闘不能です……』
「り、リカーム……というか皆さんにメディラマを……」
「待て天田。アイテムでトラフーリジェムを使ってくれ。真田先輩は僕に任せて。風花、僕達が離脱したらすぐにエスケープロードを!」
『わかりました!』


風花の返事と共に天田が頷き、そしてトラフーリジェムを使った。離脱する寸前、僕は真田先輩を抱え上げる。(減量中だからだろうか、また一段と軽くなったようだ)


『―――ユノ!』


ごたごたする中で風花がエスケープロードを発動させる声を聞く。
半ば離れていた僕は順平が伸ばしてくれた手にしがみついた。天田も順平にしがみついている。




そして次に目を開けると、見慣れたエントランスにいた。




「……っはー」
「一種のスリル体験だなこりゃ……」
「で、すね……」


自然な動作で順平と手を離して失笑をもらす。天田も順平から離れて一息ついていたが、すぐさま顔色を変えた。


「真田さん!!」
「うお、リアルに忘れてたぞ!ど、どうだ立花!」
「……瀕死というか仮死というか………やばい」
「明彦!……冷たいな。ブフ系にやられたか。ゆかり、天田!回復を!」
「は、はい!」


天田とゆかりが回復を始める。淡い光は真田先輩を包むが、どうも効きが悪く真田先輩は冷たいままだ。
握った手から、温かさが奪われる。普通なら僕が奪うほうなのに。


「先輩、先輩!息をして!目を開けて!!」
「死ぬな明彦!」


くーん、とコロマルが鳴いた。それをアイギスが「大丈夫ですよ」となだめる。しかし心なしかアイギスも不安そうな表情だ。

僕の隣では、アギで燃やすか!?とかどこかズレた発言をしている順平を風花が必死に止めている。
でもやっぱり火は必要だ。


「順平、火を起こしてくれ!ゆかりと天田はそのまま回復を頼む!」
「よしわかった!何か燃やせるものないか!?」
「それならこれなんてどうでありますか?」
「お、それいいじゃんアイちゃん!」


順平がアイギスから手渡された物に火をつける。エントランスが暖かくなった。

僕は、それでもまだ息をしない真田先輩を横たえる。
そして軌道を確保して、人口呼吸を試みた。


(……荒垣先輩、)


大きく吹き込んで、口を離す作業を何回か繰り返す。


(真田先輩を、まだ連れて行かないで下さい……)


もう一回息を吹き込もうとしたら、真田先輩がゴホッと息を吹き返した。
あ、泣きそう。


「………ここ、は」
「明彦!お前は正真正銘の馬鹿者か!!」
「よかった……!」


ゆかりも天田も脱力する。
順平もへたりこみそうになった所をアイギスに支えられていた。


「立花………」
「…生きてて、よかったです。真田先輩」
「…そうだな」


自嘲する先輩は、とても弱々しい。すぐ気を失ってしまいそうだ。
でも、その目に活力があったので僕は何も言わなかった。

いまさっきまで合わせていた唇に触れて、満足そうに微笑んだだけだった。





(休み中は手厚い看病をしますよ、せーんぱい)
(………それより美鶴からの説教を回避させてくれ)


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