FE文

□何時まで此処に?
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「オスカー、」


いつもより、穏やかな声に呼ばれて目を開けた。
視界に入ってきたのは青空と草原と、燃えるような赤色。
視界の隅にちらつく赤色の髪を持つ彼、ケビンは俯いたまま膝を抱えていた。


「君がそんなに静かなのは珍しいね」
「お前は相変わらずの減らず口だな。本当に相変わらずだ」


どうやら、機嫌も体調も悪くはないようだ。いつものように言ったらいつものように返されたから。
ならなんでそんなに大人しいのか、と聞こうとしたのだが止めた。

非常に穏やかなこの空間が聞く気を削いでしまったのだ。


「………穏やか、だな」
「ああ、穏やかで静かだ」


ケビンがやっと顔を上げた。だが目線は合わない。
私とは別の方向をぼんやりと見ているのだが、会話は進む。


「平和だ。金属の擦れる音も、叫び声も、血の臭いも、何もない、ただの平和」
「……………」
「殺さなければ生き残れない世界ではない、そんな世界が、これだ」
「ケビン…」


物腰柔らかに話すケビンがどこか儚い者に感じて、手を握ろうとしたのだが読まれてかわされた。
立ち上がったケビンは、やはりこちらを見ずに遠くを見つめている。


「こんな平和が味わえるなんて、俺は思ってなかった。毎日が生きるか死ぬかの戦いで、必ず誰かを殺してきたから」
「……私もだよ。正直、こんな平和に直面できるとは思わなかった」
「………オスカー…」


絞り出したような声と共にケビンが初めて私の方を向いた。その表情は悲痛に歪み、強い揺るぎない瞳は不安と罪悪感で一杯だ。

初めて見る彼の表情に、何と言っていいかわからなくなった。下手な慰めは多分いらないとわかっていたから。


「オスカー、一つ、我が儘を言ってもいいか?」
「ああ」
「これからも、戦ってくれ。それがどんな苦痛を伴っても、罪悪感を伴っても、戦って殺して、生き残ってくれないか?」


言葉を無くした。
ついさっきまで平和云々言っていたケビンが、私に対して実に冷静にそう告げてきたのが相当ショックだったのだろう。


何も言えない私にケビンはすっ、と手を差し延べる。


「頼む、オスカー。もうこれ以上の我が儘は言わないから、だからこの穏やかさを忘れないで戦ってくれ」
「ケビン」
「……もう行こうオスカー。ここはお前のいる場所じゃない」


立ち上がった私の背中に抱き着いてそう呟いたケビンは、ゆっくりと私を前に押した。
だんだんと、彼がしたいことが分かってくる。


「ケビ、ン」
「俺は待ってる。ずっとここで、お前が来るのを。だから少し頑張ってこい」
「ケビン!」


嗚呼、思い出したよケビン。君は、君は…。



「さらばだ、俺の好敵手で1番愛してたオスカー」



(死んだのだね)



心の中でごめんと呟いた。
守れなくて、最後もこうして私を生きるべき世界へ返してくれて、生きる道を見出だしてくれて。


すごく冷静な理由もわかったよ。ああ本当君らしくない。


でもそんな君のおかげで、もう少しくらい頑張ることはできそうだよ。



「さよなら、いや、ちょっと行ってくるよケビン」



いつもの笑い声と背中を押している手が消えたとき、私はきっと君がいない世界で目を覚ますのだろう。



(なんて、つまらない、世界。でも約束したから、少しの間、頑張ってくるよ)








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