FE文

□迎えに来ましたマイハニー
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どこかで、自軍の勝利を伝える兵士の雄叫びが聞こえた。


そうか、終わったか。
また生き延びた。


どこまでも青い空を見つめながらそんなことをぼんやりと考えていると、横に座っていた相棒が立ち上がってどこかに行く気配がした。(大変なことであるが引き止める気力がない)


相棒を一別し俺はため息をつく。ぶざまなことに馬から落ちた騎士の俺は、今生きていることが不思議でならなかった。
腹部の血は今は止まっているが流れ出た量は多いかったし、ところどころ感覚さえもない場所もある。


(右腕、は大丈夫。左腕は………アウト。右足は捻ってるな)


ここまでくれば五体があるだけいいと思えた。それほどきつい戦いだったのだ。
最終的には手持ちの武器のストックが無くなり、不慣れな槍を敵から分取って使っていたほどだから。その奮戦あってか俺はこうして生きているし、そんなに被害もひどくなかったと思う。

ここまでよくやった。後は誰かが俺を助けてくれるだけだ。だって相棒がどこか走り去ったから。


(………このまま死体に埋もれて、発見されなかったら嫌だな。というか死にたくない)


1番最悪で1番確率が高いことを考えてしまったが、恐怖よりも笑いが出てしまった。頭のどこかではこのままで野垂れ死にしてもいいと思っている。そりゃ、自分を重んじてくれているエリンシア様やアイク殿には悪いけど、正直助かる気がしない。


(全く、自分らしくない)


這ってでも生きてそう、殺しても生きてるなど言われるこの俺が、生きることを諦めてるなんて。
笑い声が少し大きくなる。
(でも所詮死にかけている奴の声だから大きくなっても大差なかった)


声を発している喉は痛いし、咥内は血の味がする。
視界は相変わらず真っ青なままだ。ああ、戦闘中は雨が降ってたっけ?すっかりやんだな。

足場の関係上、戦闘前に止んでほしかったなんて考えていると、耳障りの良い声が頭上から降り注いできた。


「ケビン、」


視界に緑が足される。


「オス、カー……?」


やはり、咥内は不快な味で染まっていた。


「ああ、こんなに酷くやられちゃって。左腕なんか本来向く方向じゃないほうに向いてるし。だからつっこむなって言ったじゃないか。あ、ジョフレ将軍は無事だったらしいよ。アイクがそう言ってた」

「オスカー、貴様、何気に、不快指数高いだろ、う」

「大正解。できれば喋ってほしくないんだけどなぁ」

「無理だな。………ああ、そういえば、貴様はどうして、俺の、居場所、が、わかった?」

「君の相棒が私の所まできてね。後を着いていったら案の定君が死にかけてた、というわけ」

「む…そうか」


いつものような表情のオスカーと、心なしか心配そうに覗き込んでくる相棒を見比べて生死とかどうでもよくなった。
いい加減この青空を見るのも飽きてきたので立とうとする。だが内蔵も痛んでいたらしく激痛が襲って来た。動けない。


「……お前ね。動けると思ったのか?それで動けるのはラグズの王族の皆様だけだと思うよ」

「普通に、失礼、だな」

「こんなことを言うのはお前相手だけだよ。………さて、連れて帰るからちゃんと捕まってて」

「は!?うお、いてて…」

「さ、帰ろうケビン」

「オスカー貴様!もっと丁寧に扱え!」


抱えられたことによる羞恥を叫んで隠そうとしたのだが、逆に咳込んでしまった。オスカーはいつものような微笑みを浮かべつつ馬を走らせる。相棒も後ろを着いて来ているようだ。


仕方がないのでオスカーの視界に顔が入らないように、俯きつつ胸に顔を埋める。

オスカーが迎えにきてくれたことを喜んでいる自分を無視して、珍しくも静かな俺はまた静かに目を閉じた。





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