FE文
□グッバイ日常
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もう、優しいあの頃には戻れないのだと、やっと理解した。
―――死んだ
そのたった三文字が、ずーっと頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回っている。
それは終わることはなく、永遠に聞き続けるのかと錯覚を起こすほどである。
「……死、ん、だ……」
一文字ずつ区切って言ってみたら、さらに頭の中で響いてくる。
認めたくない!と叫んでいるみたいだ。
「嘘だよな。まさかあの強運女が死ぬ訳、ねぇもんな」
―――味方を庇って死んだんだ
「へっ、若様も何言ってんだか。あの女が味方を庇うなんて行為するわけねぇだろ。殺られる前に我が身可愛さでさっさと逃げるって」
―――いい加減、認めろマシュー
「何をですか、若様」
―――セーラはもう、いねぇんだ
「っ!!」
頭の中のヘクトルの声との対談が終わった。
いない、という言葉が地味に突き刺さる。
『マシュー』
悪友だった女。
妹のようだった女。
口うるさかった女。
顔は美人だった女。
笑顔が似合った女。
1番大切だった女。
「っ………う………」
『何泣いてんのよ、情けない』
「…セーラ………セーラ……ぁ」
『人の名前連呼しないでよね』
「俺は、お前のこと……大切に扱えてたかなぁ……」
『……ええ、大切に扱ってくれてたわよ。そう、大切に………ありがとう』
優しかった彼女が、笑顔でかっ消えた。
「……」
嗚呼、なんて自分は非力なのだろう。
「返、せ。なぁ、返してくれ。彼女じゃないと、セーラじゃないと愛せないんだ。もうセーラじゃないとダメなんだ。だから、だから返してくれよ、なあ」
『さよなら、マシュー』
「うわあああああ!!!」
大切なものは、亡くしてから存在が確定された。
(もうあの日々は、彼女は、返ってこない)