ポケモン文
□ハロウィン
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「ハッピーハロウィーン!ということで何かくれ」
ずいっと目の前に手が伸ばされた。その手の主は俺の前でにこにこ笑っている。ちなみに服装は狼男を模したものであり、頭にはご丁寧に耳をつけている。実にハロウィンを楽しんでいる人間の服装だ。
(まあ俺も俺で吸血鬼を模した服装を着ているので、人の事を言えないのだが。ついでにこの服を提供したのはブルーであり、今俺達はブルー主催のハロウィンパーティーに出席している)
「トリックオアトリート、って言うのかと思ったが。ストレートにきたな」
自分でも珍しく笑いながらポケットからイチゴ味の飴を取り出す。そして、ア然としている狼男ことレッドに差し出した。
「グリーン……!」
「どうした、いらないのか?」
「お前は俺に悪戯されたくないのかっ!?」
「…………は?」
思わず飴を落としそうになったが、そこはどうにか耐えた。だがあのレッドの発言に俺の頭はまだついていけてないらしい。
飴を握ってないほうの手の人差し指を立て、もう一回と口にする。
「だから、お前は俺に悪戯されたくないのかって!!」
「えー……っと」
「何ならもう一回言おうか?」
「……いや、もういい。だから三回くらい殴らせろ」
「へ、あ、いや冗談だって冗談!飴、いただきます!」
俺が本気であることが伝わったのか、レッドは大人しく飴を受け取った。
その飴はレッドのポケットに行くことはなく、すぐに包装紙を剥がされ口に運ばれる。
「おー、イチゴ味。おいしいな」
「それはよかった」
「へへ、ありがとなグリーン」
ニコニコ笑って、レッドは大事そうにイチゴ味の飴を舐める。いつもはすぐに噛んでしまうレッドにしては珍しいことだ。
そんなレッドを見つつ、俺は今さっきからこちらを見ているブルーやゴールドが気になって仕方がなかった。きっとレッドと同じく何か寄越せと言われるのだろうが、あの二人は何かを寄越しただけで満足するはずがない。さらに別のものを要求される気がする、物凄く。
………逃げるしかないな。
「レッド、俺は外へ行くから……」
「どうせブルーから逃げるんだろ?俺も行くよ」
「お前も同じことを考えたか。なら行こう」
ドアのほうへ体を向けて歩きだす。
途中で気が向いたのでシルバーとイエローに飴を投げといた。その時のブルーとゴールドの表情は正直笑えた。
そして俺とレッドは肌寒い外に出る。
そこで俺はふとあることを思い出した。
「……そうだ、レッド」
「んー?」
「トリックオアトリート、ってまだ言ってなかったよな」
「あー、そうだな」
無意識に俺達は身を寄せ合って、壁に寄り掛かる。
お菓子をせがまれたレッドはポケットを探って、探って、探って………やっと飴を取り出した。
「あぶね、ないかと思った」
「大人しく悪戯を受ければよかったものを」
「グリーンの悪戯はなんか怖いから嫌だよ」
笑いながら言うレッドをちらりと見て、俺は飴を口に含む。オレンジ味だ。
久しぶりの甘さに思わず目を細めて、ガリと飴を噛む。
「な、おいしい?」
「おいしいよ」
「よかった」
レッドは笑う。
俺もそれにつられて笑う。
室内の騒ぎとこの場所の静けさと、隣の温かさが妙に心地よかった。