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□オムライス
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空座町のはずれに位置する
雑貨屋―――浦原商店の一室で、
平子は雑誌を読んでいた。
特に興味がある内容があったわけではないが、
暇つぶしには丁度いいだろうと店から勝手に取ったものだ。

店の主であり平子の恋人である浦原は、
帳簿をつけていた。
他の者達は出掛けている。

お互い特に話すこともなく、
静かな時間が流れていた。

心地の良い沈黙が暫く続いたのち、
急に浦原が口を開いた。

「お腹すいたっス。」

何の脈絡もないその言葉に
平子はちらりと浦原を見たが
すぐに雑誌に目を落とした。
突拍子もない浦原の言葉には慣れている。

「ねぇ、平子さん。お腹すいたっス。」

「何か作ったらええやん。」

「アタシ料理出来ませんよ。
知ってるでしょう?」

「知っとるケド…。
自分で食う分も作れへんのか。」

呆れたように言うと、浦原は至極真面目な顔で頷いた。

「この前夜食作ろうとしたら
テッサイに怒られました。」

「テッサイ怒らすて…。
喜助お前何やったねん。」

「普通におにぎり作ってただけなんスけどねぇ…。」

わからないと首を捻る浦原に
平子はふぅっと息をつくと
テッサイも苦労しとんなぁ、と呟きながら立ち上がった。

エプロンを着けて台所へ向かう平子を見送ると
浦原はごろんと畳の上に横になった。

平子が料理をしている間何をしようかと考えていると
眠たくなり、そのまま目を閉じた。


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