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□夢現
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夏から秋へと移り変わる兆しが
山々に見え始めたある日、
浦原は熱で寝こんでいた。
3日程前から体が重く、咳が出ていたのだが、
大切な実験の真っ最中だったために
ふらつく体に鞭を打って徹夜をした結果、
実験が終わった途端に熱が上がり、
起き上がることすら出来なくなっていた。

「無茶をし過ぎですよ、店長。
実験が大切なのもわかりますが
ご自分も大切になさって下さい。」

「…スミマセン…。」

横になった浦原の枕元で
タオルを濡らしているテッサイは

ため息を着くと普段よりも素直な浦原の額に濡らしたタオルを置いた。

「では店長、私は雨殿とジン太殿の食事を
用意して参ります。
大人しく横になっていて下さい。」

テッサイは立ち上がるとそう言い残して
襖を閉めた。
部屋から遠ざかる足音が聞こえなくなると
浦原の耳には自分の荒い息遣いしか聞こえなくなった。

(熱なんて久しぶりっスねぇ…。
前に熱出したのは…。
━━━━あぁ、まだ平子さん達がいた頃だ…。)

浦原の脳裏に浮かぶのは
寝込んだ自分の為に平子やひよ里達が
看病をしてくれた時の光景だった。

(そうそう、ひよ里さんが作ってくれたお粥が
炭みたいで平子さん達真っ青になってたんスよね。)

浦原は思い出した光景にくすりと笑みを零したが
その瞳はすぐに憂いを帯びた。
楽しい思い出のあとに浮かぶのは
いつだって愛しい恋人のことばかり。

食欲は無かったのに平子の剥いてくれた林檎だけは
不思議と食べることが出来たこと。
普段は自分の方が体温が低いのに、
熱を出した時は平子の手が冷たくて
ずっと額に手を乗せてもらっていたこと。
平子に触れてもらうのが大好きでひどく安心したことなど。

そんなことを考えているうちに
いつの間にか眠りに着いていた。


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